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勇者一行は長い戦いの末、今まさに最後の決戦を迎えようとしていた。
「もはやここまでだぞ、魔王!」
眼前にどっしりと居座るのは、大きな角を頭に生やして漆黒のマントを羽織る『如何にもな』魔王だ。勇者がギラリと輝く剣先を向ける。
勇者の周りは女武闘家に老賢者、幼く見える男ヒーラーと青年の魔法使いが鋭い眼差しで魔王を睨みつけているが。
「ふふ……そう簡単に行くかな? 儂を誰だと思うておる。それにまだ眷属も残っておるしの」
魔王の傍らには濃いブルーの化粧を顔面に施した女幹部が薄笑いを浮かべ、その反対側では3の頭を持つ巨大なケルベロスがグルル……と喉の奥で唸っている。
「お前の野望はここまでだ! このオレが必ず貴様をこ……」
《ちょっと待ったぁぁ!》
勇者が啖呵を切っている途中で、何者かの声が上空から降ってきた。
「な、何だ?!」
勇者たちのみならず魔王たちも、予想外の出来事に驚いて上空を見上げた。
「何の声だ、今のは?!」
魔王が苛立つと。
《私ですか? 私は『web小説ポリス』です》
と、ごつごつした洞窟の上空から冷静な声が返ってきた。
「いや、よく知りませんけど。何か用なんですか?」
魔法使いが恐る恐る尋ねると。
《はい。昨今はweb小説界隈も人口が増え、それに伴って不適切な表現も増えているのです。実に嘆かわしい。また事実と異なる風説の流布などもあり、それらについてパトロールし、指導・是正するのが私たちの仕事なのです》
「……よく分からないんだけど」
勇者が天井を見上げる。
「要するに、さっきの発言が何かまずかったと?」
《ああ、これだから自覚のないアマチュアは困るんです》
声の主はあからさまに大げさなため息をついてみせた。
《この作品はR18指定外ですよね? だったら敵を◯す、とか以ての外でしょう。如何なる場合にあっても◯しを正当化することはコンプライアンス上、認められません。不適切な表現は原稿から消し、書き直してください》
「いや、だって」
勇者が不服そうに粘る。
「こいつら、罪のない村人を◯したり食べたりしているんだぞ?」
《ダメです》
ポリスは譲らない。
《如何なる罪においても、その是非は裁判所の判決によって決定され、司法がその罪を適切に実行します。子どもが読む作品に私刑の肯定なぞとても認められません》
「いやあーでもぉ、それを言ったら某『将軍様が市中で悪人をぶった斬る』ドラマはどうするんです?」
女武闘家が口を尖らせると。
《ええっと、あ、あれは最終権限者が自ら処断しているのでノープロブレムです》
「え……何か今、ちょっと言葉に詰まってなかったか?」
魔法使いが不審そうに目を細めるが。
《そんなことはありません! とにかく、コンプラとポリコレ上の問題がなければ、それでよいのです。では、続けてください》
勇者と魔王は再びにらみ合うが。
(いや、さっきの続き言えよほら)
(やだよ、そっちこそ何か言えよ)
言葉にならない譲り合いが始まった。
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