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12 交わり
花摘みの会の後、しばらく何事も起こらず静かに部屋で過ごす。陛下は昼間に少しおいでになり、書物の話をして帰って行かれた。昼間の訪れはホッとする。昼間の訪問は偏りなく、陛下は順番に妃たちのもとへ向かう。最近はやはり曹貴人が一番多く寝所に呼ばれているらしい。
このまま昼間だけの訪問だったらいいのにと思ったが、やはりそうはいかなかった。2ヶ月ほどたつと、とうとう寝所に参るようにとお達しがあった。
「お久しぶりですね! さあ、身体を念入りに磨きますね!」
侍女の小秋が張り切っている。今夜はどうなのだろうか。夜伽はあるのだろうか。三日もなかったのでまたお話で終ってしまうのではないだろうか。それなら、そのほうがいいと思ってしまう。陛下はとても素敵でお優しい。きっと他の妃たちは陛下に身を任せたいと願うはず。それなのになぜか私は陛下との交わりに不安を感じてしまう。
「どうしてかしら……」
浮かない顔をしているのを小秋に見られてしまう。
「どうしたんですか? もしかしてあまり体調がよろしくないとか?」
「あ、ううん。緊張しちゃって……」
「もう4度目ですのに。王宮人なんか自分が一番の寵姫みたいなご様子ですよ?」
「そんなこと言わないの」
どこでだれが聞いているのか、わからないので人の名前は極力出さないようにたしなめる。
「はーい」
しょんぼりして小秋は私に肌着を当てる。
「私は落ち着いて暮らしていきたいだけだから」
正直な気持ちに、小秋も「そうですよね」と納得して気を取り直したようだ。
「じゃあ、いってくるわ。少し字の練習もするのよ」
そう言いつけて私は陛下のもとへ参った。
頭を下げたまま陛下のもとに伺い、腰を落とす。
「よい。こちらへ」
陛下は私の手を取り寝台に腰かけさせた。今夜の陛下の寝所は、今までと違って強めの香が焚かれている。
「待たせてしまったな。今夜こそ夫婦になろう」
「え……」
とうとう本当の初夜を迎えるのだ。緊張していると年老いた女官がお盆を持って入ってきた。
「こちらに置きまする」
「うむ。下がって良い」
頭を下げ、誰とも目を合わさず女官は去っていった。小さな丸い机の上に置かれた盆の上には、白、薄い青、薄い黄色の3つの杯が乗っている。
「これらの酒を飲んでほしい。3つの杯とも」
「わかりました」
陛下にこれは何ですかと質問は出来ずに順番に杯を空けていく。
「そなたの目と口と耳を利かなくするもので身体には害がないので心配しないように」
「は、うぅ、ぃ……」
もう口が痺れたきたようで話すことが困難になってきた。目もかすみ始める。陛下の姿がぼんやりとした影のようになり、滲む。陛下の声がぼわんとした音に聞こえる。酒ということで身体にもあまり力が入ってこなくなっている。陛下が支えてくれているのだろう。腰を抱えられ寝台の上に寝かされる。これから陛下と和合を行うのだ。貴い身分のお方故、玉体を見てはいけないということなのだろうか。
深い霧の中で横たわっていると、唇に温かい唇が重なる。
「あ……」
ゆっくり吸われて唇を食むように、唇の上、下を咥えられる。書物で読んだ通りに、私は陛下の動きに応じ、同じように唇を食む。優しくて柔らかく熱い唇だと思っていると、そっと舌が忍び込んでくる。ゆっくりと口の中に入り込んでくる。口は痺れて話すことはできないが、私の舌はゆるゆるとだが陛下の動きに応じることが出来る。じっくりゆっくり口づけを交わすと、さっきまで思っていた陛下との交わりの不安が消えていった。
その後、視界がはっきりしてきたころに眠りに落ちていった。優しい手が頬をなで「翠玉」と名前を呼ばれたのが最後の記憶だった。
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