13 交わりの後

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13 交わりの後

 読まない書物の上に手を置いてぼんやり座っていると、陛下が到着されたと声がかかった。慌てて出迎えると「よいよい」と人払いをされた。 「どうだ。身体は平気か?」 「あ、は、はい」  陛下は私の身体を心配して労いにやってきてくれたのだ。昨晩の陛下との行為を反芻する。目も耳も口も閉ざされた状況で、覚えているのは肌の泡立つ感じと、強い刺激と自分の興奮だった。  目の前の陛下は、畏れ多くも繊細で優美だ。このような陛下があのような行為をなさるなんて、なんだか信じられなかった。また自分があのような声をあげて、身もだえすることも想像になかったのでとても恥ずかしい。  私のことをどう思ったのだろうか。下品だと思われなかっただろうか。 「ゆっくり過ごすがよい」 「ありがとうございます」 「では、またな」  陛下はすぐに帰って行かれた。部屋の外までお送りすると、物陰に曹貴人が待っていた。陛下の腕に自分の腕をからませながら、ちらりとこちらを振り向いた。目が合ったので慌てて頭と腰を下げた。  曹貴人はじっと覗き込むようにしてじろりと見てくる。今度こそ、陛下と男女として交わったとわかって確認しに来たのだろうか。以前の私と何か違うと思ったのだろうか。彼女の強い視線に、私は恐れおののくのだった。  夜はしばらく呼ばれなかったが、昼間に陛下の訪れが何度かあった。小説の話をして、楽しくゆったりとした時間を過ごす。陛下の好みは私とよく似ていて、明るくて楽しい話が好きだった。平穏な毎日だと思っていると、とうとう夜に呼ばれた。    今夜も3種の杯を空け、横たわる。陛下は前回と違ってゆっくりと優しく私を愛撫し、ゆるゆると中に入ってきた。前回と違うのは私も同じだった。早くから快感を得て、陛下が入ってきたときには、甘い快感が全身に広がるようだった。思わず「き、お、いい(気持ちいい)……」と言葉にしてしまう。  身体が慣れてきたのか、陛下の身体に馴染んできたのか。動かれるたびに快感の波に飲み込まれてしまうようだった。  昼間の陛下と、夜の陛下の差がとても激しい。私自身も昼と夜の差が大きすぎる気がしている。明るい日の中で陛下と話をしているととても安らぎ、温かく優しい気持ちが流れる。しかし夜の陛下は激しく熱く、激流のようだ。  さすがに気分が重苦しくなってきたので、部屋から出て散歩することにした。  広い庭をぶらついていると、久しぶりに王宮人に出会った。下の身分の私は、腰を落として挨拶する。 「あら、ごきげんよう」 「お変わりなく元気そうで」 「変わりはあったわよ。ほら」 「あっ」  王宮人は自分の腹を丸く撫でる。懐妊したのだ。 「おめでとうございます」 「ありがと。あなたもそろそろじゃなくって? ほかの采女たちもその徴候が出てきているらしいわよ」  王宮人は輝く頬を見せる。もともと華やかな美しさを持つ女人だが、ますます力強く自信に満ちているように見える。 「あとでお祝いの品を届けます」 「いいわよ、気にしないで。まだ何があるかわからないでしょ?」  さらっと怖いことを言われて、私は押し黙る。 「まあ、医師も大丈夫といってるから、安心してるけど」  そう言って王宮人は立ち去った。華やかな後ろ姿を見送りながら、陛下は王宮人にもあのようなことをなさるのかと想像してしまった。 「ふうっ」  思わずため息をつき、東屋に腰かけると会いたくない人に出会ってしまう。曹貴人だ。思わず横を向いたが、こんな柱と屋根しかない東屋では、私が丸見えだ。さっと私を見つけ近寄ってくる。急いで立ち上がり、腰を落として挨拶する。 「ふふふっ」  いつも私を見て曹貴人は笑う。陛下と一緒の時は睨んでいただろうか。曹貴人も供をつけず一人で散歩中なのだろうか。 「座らぬのか?」 「あ、ああ」  どかっと曹貴人はすわり、私を隣に座らせる。 「どうじゃ。女になった気分は」 「えっ」  そんなことを聞いてくるなんて、なんて答えればいいのか全く分からない。 「交わりはどうじゃった? 嫌じゃったか?」 「いえ、別に」  嫌ではないし、かといって良かったですとも言えない。 「よかったのか?」 「えっと」 「よくなかったのか」 「いえ」 「どうなのじゃ」  なぜこんなにしつこく聞いてくるのだろうか。良いと言えば、嫉妬で怒りだすかもしれないし、良くないと言えば陛下に告げ口するのだろうか。 「畏れ多くて、どうだったのかなんてとても……」 「ふーん」  これで納得してくれただろうか。 「どれ」  そう言って曹貴人は私の顎を持ち、顔を自分のほうに向けさせる。 「あっ」  じっと目を覗き込む。顔をつかまれ、目をそむくことが出来ない。彼女の真っ黒い濡れた瞳を見つめ返すしかなかった。 「肌の艶も良くなり、目も潤んでおるな。ふふふ」  そのまま親指で私の唇をすうっと横に撫でる。一体何をしているのだろう。陛下と交わった私の調子を窺っているのだろうか。 「は、はなし、て、ください」  精一杯の声で言うと、そっと曹貴人は私を解放した。おもむろに立ち上がり、もう一度私に一瞥くれ、去っていった。 「一体何だったのかしら」  気分転換の散歩で、逆に疲れてしまい部屋に帰ることにした。
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