4 筆記試験

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4 筆記試験

 受付を済ませ、会場に入ると思わず声をあげそうになった。 「こんなにいるの?」  私の町の人たちを全員集めてもまだ足りないくらいだ。しかもみんな女人! こんな数の女人見たことがない。もちろん途中で歩いていた美しく着飾っている女人ばかりだった。きょろきょろしながら自分の番号札の机を探す。広い会場の中でそんなに遠いところではなかったので助かった。 「ふう。もうなんだか疲れちゃった」  思わずため息をつくと隣でクスっと笑う声が聞こえた。ちらっと見ると、またまた華やかで大輪の牡丹のような女人が笑んでいた。田舎者だと思われたのだろう。まあ実際そうなので気にしないで呼吸を整える。  気持ちを落ち着かせているところに銅鑼が鳴る。つかつかと背の高くひょろりとしたひげを伸ばした男がこほんとせき払いをする。 「これから試験を行う。午前中は筆記試験だ。今から問題を配る。別に解答用紙があるのでそちらに記入するように。昼食はこちらで用意するので、帰ったりせぬよう。午後は身体検査がある。以上だ。心してかかるように」  一瞬、しんと静まり返ったのち、問題用紙が配られ始める。全員の机に配られてから一斉に紙がめくれる音が聞こえた。まるでこの会場全体に風が吹いたようだった。 「この問題って……」  てっきり儒学や歴史、詩経などの問題が出ると思っていたが違った。科挙対策をしてきたがあまり役に立ちそうにない。ただ一般教養なのだろうか。難しいこともなさそうだった。筆を進めていると周囲からハァ……とため息が聞こえ始めた。問題を読み進めていくと確かにため息をつきたくなるかもしれない。しかし隣の女人はまたもやクスっとこっそり笑っていた。    午前中いっぱいの筆記試験が終わり、答案用紙が全て集められると、またさっきの背の高い男がやってきた。 「さて。これから昼食と休憩時間に入る。食事の時間は4刻(60分)で済んだものは、この奥から広場に出て待っているがよい。次の試験はわからないことがあれば、試験官に聞くように。それでは今から食事を配る」  男が言い終わるとざっと大勢の女人が配膳を始めた。あつもの(スープ)から冷菜、麺、マントウ、肉、魚、青菜など目の前に10品もの料理が並べられた。それぞれ少量なので食べきれない量ではないが。 「すごい……」 この品数をこの人数全てに出すなんてすごすぎる。料理も見たことがない美しさだった。恐る恐る透き通ったあつものをレンゲですくって口に運ぶ。 「!?っ」  美味しくてびっくりした。鳥のような魚のような何で出汁がとっているのかわからない。ほとんど美味しくいただいたが、唯一、火の通りのあまい肉があったので残してしまった。 「もったいなかったけど、午後もあるしね」  これだけの人数の食事だもの。不備があってもしょうがないだろうと、食事の時間が終るまでじっと食休みを取った。早く終えて広場に行った者もいるようで、座っているのは3分の一くらいの人数だった。隣の女人もまだ座っている。 「みんなお腹いっぱいでよく動けるのね。父さんは食べてすぐ動くのはよくないと言ってたけど」  食事終了の銅鑼が鳴ったので席を立ち、広場に向かう。出口でふっと試験会場を振り返ると食器を直ぐ下げられることなく、試験官たちが私たちの食事の後を用紙に書き込んでいるようだった。気になったが後ろの人に「早く出て」と言われたので慌てて会場を後にした。
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