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蜘蛛の糸
「お父さん、死にたい・・・。」と、うつ病の娘からメールが今日も来た。
「私も死んで、天国のお母さんの元へ行きたい。」泣きながら、毎日、電話もかかって来る。
正直、こちらの方が参りそうだ。
仕事、仕事で疲れているのに、仕事中も、娘から電話がかかって来る。
ノイローゼになりそうだ。
そんな日々を過ごしていた頃だった、伽耶(かや)と出会ったのは。
伽耶は、ガンで亡くなった妻と違って大人しくて、穏やかだった。
顔も頭の回転の速さも、妻より劣るが、性格は気性が激しかった妻とは違う。
俗に言う、癒し系だった。
伽耶とはススキノのクラブで知り合った。
私が、たまたまススキノ通信を読んで、そこに載っていた店を訪れた時に、席に着いたホステスだった。
お酒の入ったもの同士。
そしてどこか気も合う。
伽耶と私が男女の仲になるのに、時間はそうかからなかった。
「有佳(ゆか)、紹介するよ。伽耶だ。有佳の新しいお母さんだよ。」
私は、伽耶を娘に初めて紹介した。
娘は初めは、戸惑っていたが、すぐに仲良くなってくれた。
さすが、前の妻の遺伝子を持っているだけあって、コミュニケーション能力が高い。言葉足らずで、人に誤解されやすい私とは違う。
月日は流れ、私も年のせいか疲れやすくなってきた。
最初は、その程度だった。
しかし、どうしてだろう、息切れが前よりしやすくなってきた。
でも、病院に行ってる時間はない。
仕事がある。
自営業と言えど、休める時間はそうはない。
毎日、体を酷使する。
今年は特に忙しい。
きっと、そのせいだろう。
大して気にしてなかった。
「伽耶さん、どうして私の父と結婚したんですか?」
「はぁ!?お金に決まってるでしょ!!じゃなきゃ、あんな頭の回転の遅い男なんかと、私が結婚するわけないでしょ!!」
「・・・すみません」
「は?聞こえないんだけど!もっと大きな声で言ってよね!はいはい、邪魔邪魔、どいて、私、人に会わないとダメなの。約束があるから!」
「・・・わかりました。すみません。」
「あんた見てるとイライラするわ!何もできない出来損ないが!!死にたいなら、死ね!!!あんたのお父さんも、案外喜ぶんじゃない!?あはははははは!」
おかしい、もう息が続かなくなってきた。
目の前が真っ白だ。
私は一体・・・・・。
「もしもし伽耶さん!?父が倒れて病院に運ばれたらしくて!」
「え!?ホント!?わかった病院に行くわ!」
享年59歳。
私は心臓発作でこの世を去った。
毒を盛られていたらしい。
少しづつ少しづつ・・・伽耶に。
無念だ。
有佳にとっては、父親失格だったかもしれない。
でも、残された有佳が気がかりだ。
伽耶は逮捕されたのだろうか。
「もしもし?ねえ、有佳ちゃん。いつまでも泣いてないで、一緒に気晴らしにドライブに行かない?」
「良いんですか?」
「うん!なんだか、私も悲しくて・・・。」
「父のこと愛してくれてたんですね・・・。」
「そうね、どこかでは愛していたかもね。それじゃ、行きましょ!」
「綺麗な海ですね〜癒されるなあ・・。でも、毒を持った犯人って誰なんですかね・・。」
「さあ。そんな心気臭い話は止めたら?せっかく海に来てるんだし。」
「伽耶さん、私、見てしまったんです。」
「何を?」
「伽耶さんが毒を父のビールに入れているところを。」
「!?」
「実は、私は伽耶さんのことが気になって、探偵を使って、伽耶さんを調べさせてもらいました。」
「姑息な!!」
「そして、伽耶さんには父の他に男の人がいたこと、そして、父に多額の生命保険をかけていて、受け取りがその男の人だったことも。」
「だからって、あんたの証言だけで、あんたのお父さんに、毒を持った証拠にはならないでしょ!?」
「そう思うでしょう?だから、監視カメラを実はこっそり付けたんです。家の至るところに。それこそ、死角がないように。」
「あんたのこと、舐めてたわ!ただの鈍臭い女だと思ってたのに!」
「私を生かしておいたのは、一気に人が死んだら怪しまれるからですよね?不思議なことに、父が死んでから、伽耶さん、あなたは、料理をしなくなった。そして、私は念の為、父が死んでから、あなたが家を出るまでの、あの僅かな時ですら、一瞬足りとも気を抜かず、家の食べ物や飲み物には、口を一切つけませんでした。毒が盛られていたら大変ですからね。引っ越して正解でした。」
「あはははは!さすがだわ!あんたのお父さん、あんたの事、たいそう頭の良い娘だと、私がホステスしてる頃から、自慢してたもの!でも、ここに来たのは間違いだったね!知られて生かして置くわけには行かないもの!あんたもあの世に行け!」
伽耶は有佳を海につき落とした。
伽耶は最初から、そのつもりで、有佳を海に連れて来たのだった。
私は何もできないかもしれないが、せめて有佳を助けに行かないと!
有佳は、伽耶の足をつかんでいる!
そして、伽耶は必死で、有佳の頭を反対の足で蹴っている。
その時だった。
あ・・・洋子!
他界した前の妻が、有佳の反対の手を地上に引っ張っている!
すごい霊力だ!
通常、霊は、お釈迦様に認められた者しか、この世でどうにかする力を持てない。
有佳の反対の手が、地上に付いたその瞬間だった。
洋子が、伽耶を後ろから突き落とした!!
こうして伽耶は、この世で言う、初七日、二七日、三七日・・・と、49日まで、霊界の裁判により、地獄へ堕とされた。
そこで伽耶は出会った。
再び、私に。
しかし、姿形は生前の私とは違う。
私は言った。
「私は、あの有名な話に出てくる、蜘蛛の糸蜘蛛なんです。あなたの先祖も、皆、地獄へ堕ちました。だから悪人は、未来永劫、悪人なんですね。」
終わり
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