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第8話 たった三人だけの修学旅行(中編)
今日は自主研修の日だ。
自分達が行きたい場所を見学し、その場所までの道のりも自分達で調べる。
自分達が全て計画し、実行する。
私達は、東大、科学館、アニメ美術館を周ることにしている。
ゴール地点は東京タワーだ。
「さて、十七時には東京タワーに集合ね。何かあったら、先生の携帯に電話すること」
「はーい」
「んじゃー、行ってらっしゃーい。達者でな~」
「行ってきまーす」
ホテルのロビーで校長先生と川村先生に見送られて、私達はホテルをあとにした。
「さて、初めは東大の赤門を見に行くことだったよね?」
千秋がしおりを見て確認した。
「そうそう! ちょっと東大気分を味わいに……。なっつー、道順を調べてたよねー?」
「うん。まず、駅に行こう」
「……どっち?」
「えっ……」
「……?」
千秋が恐る恐る問いかけてきた。
「道、分かんない感じ?」
「……うん」
「この方向音痴め!」
「すまん!」
「どうしよう……地図があれば……」
「私、ちょっとホテルのフロントで周辺地図貰ってくる!」
「うちらも行くよー」
フロントで周辺地図を貰って、地図を頼りに駅に向かった。
自分達で選んだ場所だから、楽しいところばかりだ。
赤門の前で記念撮影を撮ったり、科学館で最新科学に触れたり、アニメ美術館で原画を見て興奮したり……。
写真もたくさん撮った。
「さて、予定してた所はこんな感じかな? 東京タワーに向かおうか」
千秋が言う。
私達は、駅に向かって歩いた。
東京タワーの最寄り駅に着いたはずだった。
駅のホームから外に出ると、ふーが
「ん? ここ? ちょっと待って」
と話し、地図を広げ始めた。
「あれ? 一駅違う!」
「マジか!」
私と千秋は驚いた。
すると千秋がなにかに気がつく。
「あれ? あれ、東京タワーっぽくない?」
「あ、本当だ!」
千秋は、オレンジ色にライトアップされている東京タワーを指差しながら言った。
さすが千秋!
私達の中で一番背が高いだけある。
「よし、あの東京タワー目指して歩いていけばいいんじゃない!?」
ふーが勢いよく言った。
私達は、東京タワーを目指して歩き始めた。
しかし、なかなか遠い。
辺りは更に暗くなってきた。
東京タワーと似たような光があって、どれが東京タワーなのか分からなくなってきた。
ふーが、「こっち!」「あっち!」と言い、先頭をきって歩いてくれている。
私も千秋も知恵を出し合って目的地を目指す。
もはや、野生の勘で東京タワーを目指すド田舎の三人娘。
「あ! 入り口見えてきた!」
ふーが東京タワーの入り口を見つけたらしい。
自然と三人の足取りが早くなる。
「三人とも、お疲れ様」
校長先生が待っていた。
「間に合わないかと思っていました」
泣きそうな声で私達は言った。
「あれ? 川村先生は?」
千秋は川村先生が居ないことに気づく。
すると、校長先生がニコニコしながら私達の後方を見つめている。
不思議そうに私達は後ろを振り向いた。
「やっと気づいてくれたぁー」
川村先生がニコニコしながら私達の真後ろに立っていた。
「ギャァーーー!!!」
「いやいや、ぎゃーって何、ぎゃーって」
「いつから居たんですかっ!?」
私は川村先生に問いかけた。
「最初から」
「は?」
「最初から居たよ。君達、凄く楽しんでて、全然気づいてくれなかったんだもん」
「ストーカー……」
千秋が呟いた。
「なんで黙っていたんですか?」
ふーが川村先生に聞く。
「このままの方が面白かったから。でもさー、東京タワーまで行く時、ハラハラしたよー。時間に間に合わないかと思ってたよー。でも、さすがだね。野生の勘」
「野生は余計です」
千秋がツッコムも、ふーが、
「えへん! 凄いでしょー!」
と、威張っていた。
「さぁー、もう時間だしエレベーターに向かおう」
「はーい」
私達は、タワーのエレベーターに乗り、最上階を目指した。
とても長い。
どこまで上がるんだ、このエレベーターは……。
あまりの長さに酔いそうになる。
やっと、最上階に到着した。
「わぁー……」
東京を一望できる、素晴らしい夜景だ。
「きれい! 写真撮ろう!」
ふーがはしゃいでいる。
「なっつも撮ろうよー!」
千秋が私の手をひいた。
「ん? なっつー、行くよ? もっと近くで見ようよ」
「分かった! 分かってる!」
私の足はおぼつかなかった。
それもそのはず。
私は、高所恐怖症なのだ。
「あ……。そうだった……」
千秋は少し考えると、すぐ思い出してくれた。
小さい頃から私が、高いところが苦手であることを。
しかし、テンション爆上がりで気づいていないふーが、私を焦らせる。
「ねー! 二人とも早くー!」
「千秋……、介護してくれ……」
「んじゃーまず、右足を前に出して、次に左足を前に」
千秋が、窓まで手を引いて誘導してくれた。
「うわー……。すごいなー……。きれいだ……なー……」
明らかに棒読みの私。
下なんて見れたもんじゃない。
「あ! 床スケスケの所あるよー! ねー二人とも、一緒に『せーの』でスケスケの床を踏んでみよーよー!」
おい、ふー!
トドメを差すなぁー!!!
千秋がノリにノリ始める。
「お、すごーい! やろーやろー!」
千秋、お前まで……。
川村先生もノッてきた。
「面白そう! 動画撮ってあげるよ!」
千秋とふーがスケスケの床の上で、はしゃいでいる様子をカメラで動画を撮り始めた。
やめてくれ~。
「ほら! なっつも!」
三人が私の背を押してきた。
全くノッていない私。
「んじゃー、行くよー……。せーのっ!」
一斉にガラスの床に乗った。
しかし、私だけはその場をジャンプしただけであった。
「ちょっと! なっつ、真面目に!」
ふー、そういうことじゃない!
真面目に怖いんだって……。
思い拒んでいると、川村先生が私の背を押してきた。
「ギャァッー!」
気がつくと、ガラスの床に立っている。
私はとっさにガラスの床から離れた。
「案外、大丈夫だったでしょ?」
「先生……私、高い所苦手なんですけど……」
「知ってるー。様子見れば分かるよー」
ひでぇ教師だ。
でも、地元では見れない色んな色の光が東京の夜の街を埋め尽くしている。
きれいだ……。
そう本気で思えたのは、エレベーターで降りている時であった。
ホテルに着き、明日の予定を確認し合った。
「明日は待ちに待ったテーマパーク! 丸一日遊べるんだよ! 楽しみだよ!」
「その前に、水族館だろ?」
はしゃぐふーに私は呟くようにツッコむも、もう、疲れ切ってしまい、ツッコミに張りがない。
「今日も疲れたし、もう休もうか」
千秋も疲れているようだ。
「そうだねー。電気消すよー。おやすみー」
まもなくすると、ふーの寝言のオンパレードが始まったのであった。
普段の喋り口調と変わらない寝言。
私達に話しかけているのか寝言なのか、判断しかねる。
「まってぇ~。まだ、遊び足りないぃ~」
「サインちょ~だ~い」
「うへへへへ……」
頼む……、寝かせてくれ。
そう思う、私と千秋であった。
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