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①砂の城
世界で一番美しい海岸のある町──という謳い文句は大げさかもしれないが、確かに美しいその海岸には、しかし大勢の観光客が所狭しとひしめき合っていて、僕は正直ウンザリした。眩しい日差しの下で水と戯れる人々を横目で一瞥し、足早に宿に入る。眺めの良いその部屋は、この町に来たものならば普通誰もが泊まってみたいと思うような一室だったが、僕にとってはただ煩く思えるだけで、腹が立つぐらいに爽やかな潮風の吹き込む窓を乱暴に閉め、一気にカーテンをとじると、外から聞こえる賑やかな笑い声から逃れるためにベッドに入って頭から布団を被った。
「なんだよ・・・」
おそらく、僕がもっと喜ぶことを期待していたのだろう。相棒のモートが、がっかりした声でそう呟く。知り合ってから一年も経つのだから、そろそろ僕というものをわかって欲しい。
お世辞にも人付き合いが上手いとは言えず、飽きっぽく怠惰な性格の僕は、定職に付くこともできず、その日暮らしの冒険者として生計を立てていた。昔は娼館にいたこともあったが、そんな自分に嫌気がさし、外へ飛び出してみたものの・・・・・結局は一人で生きていくこともできずに、こうしていつも適当な男と一緒に旅をしている。モート・・・・・・彼が何人目の相棒になるのかはもう忘れた。だが、彼がとてもいいヤツだということは、この一年で十分分かっていた。我侭で、自分ではどうにもできない苛立ちに常に支配されている僕を、彼は困ったような顔をしながらもいつも赦してくれた。彼も何らかの事情があって冒険者となった男・・・・・・寂しいもの同士が傷を舐めあっているといえばそれまでだが、それでも彼は、優しい男なのだと思う。
「せっかく世界一美しい海に来たんじゃないか。泳ぎにでも行こうぜ。俺、一度ここに来るのが夢だったんだよね」
「・・・・・・人ごみは苦手だ。日差しも強い。ダルイ。疲れた」
「おまえなぁ」
「それに・・・・・・僕に合う水着なんてない」
「あるだろ~、下がスカートタイプのヤツならわかんねぇって」
「・・・・・・」
おそらくモートは、僕のこの不自然な体のことなど、まったく気にしてはいないのだろう。それはありがたくもあったが、同時にどうせ人事だと思ってるんだろ?という自虐的な気持ちも沸いてくる。そんな自分が嫌でたまらなくて、僕はいつも心とは裏腹のことを言ってしまうのだ。そしてまた、嫌になる。ずっと、ずっとその繰り返し。
「僕のことは放っておいて、好みの女でもナンパしてきたらどうだ。たまにはマトモな女も相手にしたいだろ?」
不貞腐れた気分で布団にもぐったまま背を向けていると、モートの深い溜息が聞こえた。
「ったく・・・・・・お前とじゃなきゃ、こんな高い宿に泊まるかよ」
その言葉に、僕は少しだけ布団から頭を出して彼を見上げた。
一時の恋の相手に選ぶには、彼はまだ若すぎたのかもしれない。拗ねたような顔をしているモートの手を、僕は無言のままそっと握った。
彼がもう少し冷たい男だったら・・・・・・きっと、もっと素直に甘えることができたのに。
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