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「ロアッ!」
宿に戻ってきた僕は、モートには目もくれず買い物袋を持ったままトイレへ駆け込んだ。
「おい、ロアーヌッ」
ドアの向こうで、モートが叫んでいる。
しばらく後、薄紫色の水着を纏って現れた僕を見て、モートは一瞬何が起こったのかわからないというようにポカンとしていたが、その顔は瞬く間に歓喜の色へと染まっていった。
「・・・・・・たまにはお前を喜ばせてやろうと思ってな」
そういって、僕は微笑を浮かべようとしたが、慣れないそれはぎこちない苦笑となっただけだった。
「すごく綺麗だ」
モートの素直な驚きが、かえって気恥ずかしい。
「あまり見るなよ・・・・・・後悔したくなる」
羞恥に消え入りたくなった体を逞しい腕に優しく抱き寄せられて、与えられた暖かな口付けを僕は静かに受け入れた。
何故か、心がとても穏やかに澄んでいくのを感じた。
僕は今、ここにいる・・・・・・。
まるで、世界の真理を知ったような気分だった。
人も疎らになった夕暮れの海岸。
そこは確かに、世界一美しい海岸かもしれなかった。
足元に、崩れてほとんど形の分からなくなった少女の城跡が残っていた。
その美しさに、僕はそれが一つの完成であると初めて理解した。
たとえ失う運命でも、今を築くことは素晴らしい・・・・・・。
僕はモートの手をとって、煌めく海の中へ走っていった。
砂の城 END
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