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②囚われた娘
人を見る目がないわけじゃないと思う。
多分、こうなるだろうことは分かっていた。
それでも何かに導かれるように、僕は決まってこの道を選択してしまう。
何故だろう?
いつも、必ず後悔するのに。
何故・・・・・・。
性質の悪い男に捕まった。
力だけが頼りの、乱暴で、馬鹿で、泣き虫な男。
こんな男はどこにでもいるものだが、賢い女はきっと相手にしないのだろう。
だから多分、僕はこんなところにいるに違いない。
殴られて、蹴られて、泣きながら叩き出された。
捨てられたのはどちらなのか分からないが、僕は激昂する男に最初で最後の微笑みを見せて、その場から立ち去った。
そしてまた、僕は一人。
傷だらけの体を抱え、まだ深い朝靄のかかる裏街道を歩く。服は破れてぼろぼろで、あちこちに血が滲んでいた。どうしていつも、僕はこうなのだろうか。我ながら呆れすぎて、苦笑をする気にもなれない。
大通りに出てみてもまだ人の姿はなく、僕は広場の中央にある小さな噴水の淵に腰を下ろして、煙草を取り出し、火をつけた。
しばらくそうしていると、深い霧の中から石畳を走る馬車の音が聞こえてきた。こんな時間に馬車を走らせる人種なんて限られている。荷馬車にしては重い車輪の音からみて、おそらく同業者だろう。
程なく、馬車が横を通過した。やはり中級パーティ用の、二頭曳き装甲馬車だ。いつもなら気にも留めないそれを、思わず眼で追ってしまったのは・・・・・・厳つく無愛想な作りのその馬車には相応しくない、少女の姿を認めたからだった。
歳はおそらくまだやっと二桁になったばかりといったところだろう。町娘よりもずっと上等な身形からは、過酷な旅の生活を思わせるようなものは一見何一つ無いように思えたが、僕は瞬間的に、その少女の身の上を悟り、思わず身震いした。
ガラス玉のように無機質な少女の瞳が、ふと僕の姿を捉え、見開かれた。同じ闇を視てしまった者にしか分からない、それは奇妙な邂逅だった。
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