エリザ王子の受難

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エリザ王子の受難

 手仕事が好きだ。  幼い時から、縫物も編み物も得意だった。  僕の上には兄が十一人いて、王妃である母は僕がお腹にいた時、この子がどうか姫であるようにと朝に晩に神に祈ったそうである。さすがにもう王子は十分だと思ったらしい。名前も女性名のエリザしか考えなかったというから、母の執念が垣間見える。そして、生まれた僕は無情にも男だった。  母そっくりの白い肌に薔薇色の唇。澄んだ青い瞳。兄たちは、おもちゃの剣を投げ捨てて、僕に夢中になった。いつでも抱きしめ、口づけようと狙ってくる。母や侍女たちが必死に庇ってくれなければ、まともに育ったか謎だ。おかげで、僕は隠れるのや逃げ回るのが上手い内向的な子どもに育ってしまった。  兄たちの相手でこんなに大変なら、外に出たらどうなるかわかったものではないと、幼心に悟ったのだ。乳母と母にくっついて、刺繍でも編み物でも手仕事を習う時間が一番好きだった。しかし、神様は残酷なものである。母は流行り病であっけなく亡くなった。悲しくてぼろぼろ泣いていたら、兄たちがここぞとばかりに僕を抱きしめた。 「心配しないで、エリザ。私たちがいつだって側にいるから」  ところで、愛する妃を失くした父は、寂しさに耐え切れずさっさと再婚した。新しい母は大層な美女だったが、闇に属する魔女だった。僕には生まれた時に祝福を授けてくれた仙女がいて、相手の正体を見分けられる。父はすっかり魔女の意のままになっていた。  対面の時、兄たちを胡乱気(うろんげ)に見た義母は、最後に控えていた僕を上から下まで蛇のような目で見た。そして、ぽつりと呟いたのだ。 「……男子のくせに、この私より美しいなんて!」 「ひっ!」  義母の敵意を感じた兄たちが僕を庇うように義母との間に立って、ひそひそと囁いた。 「……何だ、あの女。エリザを睨みつけて」 「可愛いエリザ。僕たちが守ってあげるからね」  無理だ、と思った。魔女の力は強い。一刻も早く城から出て皆で逃げなければ。  兄たちは僕のように仙女から祝福の力をもらっていない。仙女は母の友人で、末子の僕に特別な祝福をくれたのだ。いざとなったら、僕が兄たちを守らなきゃ。
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