157人が本棚に入れています
本棚に追加
おまけ:王様とエリザ
季節が変わり、兄たちは故国に帰ることを決めた。
何としても魔女を倒すと言う。だが、相手は強大な力を持つ魔女だ。再び兄たちが魔法をかけられては叶わない。祝福を授けてくれた仙女に、毎日祈った。
「どうか兄たちを、魔女からお守りください」
すると、不思議な夢を見た。仙女が現れて、またイラクサで帷子を編めと言う。首を傾げると、仙女は微笑んだ。
イラクサには浄化と呪い返しの力がある。イラクサで編んだ服の帷子を身に着ければ、再び呪いを受けても、白鳥に戻ることはない。ただ、王子たちが魔女を倒すまで、誰とも口をきいてはいけないと。
僕はすぐに承知した。早速、イラクサを採りに王家の墓場へと向かう。ざくざくとイラクサを刈っていると、何事かと集まった庭師たちが一緒に刈り取ってくれた。山のようなイラクサを抱えていると、今度は次々に職人たちが集まってきた。
裂いた繊維を手にとり、縒りながら一つにつないでいく。皆で糸を作ると、故国の伯爵夫人の元で暮らしていた時のようだ。心を合わせて作ったものには、一人で作るのとは違う力が宿る。
僕が出来上がった糸でイラクサの帷子を編み始めると、職人たちは残ったイラクサからせっせと糸を作ってくれた。おかげで、予想よりもずっと早く帷子を編むことができた。
兄たちに全ての帷子を渡し、身振り手振りで着るよう告げた。イラクサを乾かして作ったお守りの香り袋も渡す。
僕の夫である王の助力で、兄たちは兵を引き連れ海を渡った。
「兄君たちが無事に魔女を倒せるように祈ろう」
浜辺から一緒に船を見送った王は、僕を見て優しく微笑んだ。昼も夜もなく力を尽くしたのだから、ゆっくり休めと労ってくれる。
ずっと力を尽くしてくれたのは、王の方だった。何も聞かず、僕を気遣い、兄たちに力を貸してくれた。
王は荒れた僕の手を取って、自分の手の中に包み込む。その仕草がひどく優しくて、ぽろりと涙がこぼれた。
「可愛い人、もう泣かないで」
大丈夫、きっとうまくいくから、と一生懸命慰めてくれる。この優しい人はきっと、僕が心配のあまり泣いていると思っているのだろう。
違うんだ。心配はもうしていない。
僕と職人たちが作ったあの帷子を着た兄たちは、必ず魔女を倒す。僕たちはそれだけの作品を、思いを込めて作ったのだから。
……ただ、僕は。
兄たちが魔女を倒すまでの間、貴方と話せないのがつらいんだ。
僕が作った手巾で、王はそっと涙を拭ってくれる。僕は心の中で兄たちに向かって大声で叫んでいた。もうさっさと、魔女を倒して来い! と。
王が優しく背を撫でてくれるほど、僕の涙は止まらない。口がきけるようになったら愛の言葉を山ほど押しつけようと、ひっそり心に誓った。
~✿おしまい✿~
★お読みいただき、ありがとうございました★
最初のコメントを投稿しよう!