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「どうした美羽。なんか今日ずっと機嫌悪いよね」
放課後、教室を出て部活に向かう途中で綾が話しかけてきた。
「いや別に」
「桐野と何かあった?」
「なんでよ」
ひやりとする。
「授業中ずっと見てたじゃん。すごい顔して」
「すごい顔は余計だ」
「まあ、美羽の気持ちはわからんでもない」
「そうでしょ?」
「うん、小学校から一緒だった子たちも言ってた」
「そう、ほんといつまでもヘタレで」
「は、何言ってんの」
「え」
「え、美羽は桐野をどう思ってるの」
……どうって。
「見たまんまよ。人当たり良くて人畜無害だけど、裏を返せば優柔不断の根性なし。今日はマゾっ気も確認してしまった」
「何それ」
綾が笑う。何がおかしいのだ。
「美羽っていつも彼を気にかけてるように見えたからさ、私はてっきり気があるのかと思ってたんだけど。そんなふうに見てるんなら、違ったんだね。申し訳なかった」
「――いろいろ訳が分からない」
「桐野くんは優柔不断でも根性なしではないよ。私は春からまだ2か月しか見てないけどさ。すごいなって思う」
「すごいの意味がわからないんだけど」
「門倉との絡み見てたら分かるって」
――むかつく以外、何が見えるんだ。
思わず言いそうになったその時、校庭の方がにわかに騒がしくなった。
綾と顔を見合わせ、外に飛び出してみると、遠巻きに十数人ほどの生徒が眺める先に、拳を握りしめて仁王立ちしている門倉がいた。昨日の喧嘩の傷跡なのか、顔にはいくつも絆創膏が貼られていたが、それも剥がれそうない勢いで、顔を真っ赤にして小刻みに震えている。
「桐野~っ。お、おちょくりやがって……! 覚えとけよ……」
語尾は力なくかすれていく。
いったいどういう状況なんだ。桐野はいったい何をした。
「校庭でぶらついてた門倉を見つけて桐野が走り寄って行ったんだって。なんか門倉に話しかけて、手をぎゅっと握ったあと、疾風のように走り去ったらしいよ」
綾が情報を仕入れてくれた。
「手を握っただと!?」
あいつは気でも狂ったのか。
血の気が引くのを感じながら校舎に戻り、理科準備室に飛び込むと、いたのは化学教師だった。「どうした?」の声に答えることもできず廊下に飛び出した。
桐野の部活も覗いたが、当然いなかった。手を握っておいて無事であるわけないのだ。私も部活どころではなく、それから1時間、学校中を探し回った。けれど見つからない。
騒ぎになっていないなら、無事に隠れられたのだろう。私は術の解けるまであと一時間、校門付近で待機することにした。
思いがけず校門には先客がいた。全ての元凶、門倉だ。
頭に血がのぼるのが分かった。足が勝手に奴に向かっていく。殴られてもいいと思った。そしたら門倉はもう学校に来れない。
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