それはなかった事にしてください

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「何わけわからないこと言ってんのよ」  こんな時にむかつく。 「恋の願い事でもしたんだろ? 叶わなかったの?」 「何よそれ。あ……、もしかしておばあちゃん?」きっと湊に話しちゃったんだ。「別に恋とかじゃないよ、友情関係のお願いで」 「そいつのこと好きなの?」 「だから違うって」  好きとか嫌いとかじゃない。私はただ桐野に強くなって欲しくて。 「好きでもない相手のことを勝手に願うのはよくないよ。そもそもあの祠は願いを叶えるためにあるんじゃない」 「知ってるよ、そんなこと」 「わかってないよ美羽は」  とがった声を出して湊は日の暮れた道路に飛び出す。 「どこ行くの。ご飯は?」 「いらない」  そのまま暗闇に消えて行った。 「何なの、あいつ」  腹たつ。  何が恋の願い事だ。私はただ人助けで……。  脳裏に桐野が浮かんできて、胸が苦しくなった。純粋にただ桐野を想ってやったことではないと心の奥では分かっていた。  考えるのを避けていた。とてつもなく自分勝手な願望があることに、向き合うのは嫌だった。  こういう感情、何で言うんだっけ。  ――自己欺瞞。
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