それはなかった事にしてください

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 翌朝、あまり時間がなかったが、学校に向かう前に祠に立ち寄った。  すべての発端は私のわがままであり、迷惑をかけた桐野にはこれからずっと何とかして償っていくとして、まず最初に影丸にきちんと謝りたかった。  何か月ぶりかに祠に行き、私欲のために願い事をしてしまった。その結果が思ってたのと違うと言って影丸に悪態ついたり、撤回しろというのはあまりにも虫が良すぎる。昔ひどい目に遭った挙句、勝手に祀られた孤独で気の毒な狸なのに。今は心底申し訳ないと感じている。  個包装のクッキーを三つ供え、ごめんなさいと手を合わせた。  そのうち微かな足音とともに、掃除用具を持った菊乃おばあちゃんがそっと横に来て、静かに手を合わせた。 「朝早くからえらいね美羽。影丸様もきっと喜ぶよ」 「だといいんだけど……」  そこでふっと、湊の顔が浮かんだ。 「ところでおばあちゃん、湊に会ったでしょ。申し訳ないけど、私のこと、なるべくしゃべらないでね。最近何かと突っかかってきて、ややこしいから」 「湊? ここしばらく会ってないね。どうかした?」 「え、昨日とか話してない? 電話でも?」 「話してないねえ。それにここ3、4日ほど、宿泊施設に泊まり込みで勉強会のはずだよ。お母さん言ってた気がするけど。違うのかい?」  え、……あれは来週だと思ってたけど。だって湊はずっと家にいる。おばあちゃん、勘違いしてるんだな。  いろいろ説明しようと思ったが、時間があまりなかった。  私は「ごめん、気にしないで。またね」と笑顔で手を振り、そのまま学校に急いだ。  状況はまったく好転してなかったが、私がやることは結局ひとつだった。  門倉を桐野に近づけないようにすること。同時に、この事態を引き起こした自分のわがままを反省し続けることだ。    やはり、本人に正直に話すべきだろうか。私のせいで術がかけられたのだと。  いくら温厚な桐野でも、私に憤り、愛想をつかすだろう。もう二度と笑いかけてくれることなどないのかもしれない。自業自得なのに胸が苦しかった。
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