5人が本棚に入れています
本棚に追加
グラウンドから外には出られないので皆校舎の方に走っていく。校舎の裏は山だが、今までクマが出たことはなかった。そんなの遠い地方の話だと思っていた。
クマは私たちと校舎の間にある鉄棒の下でうずくまったため、クマよりこっち側にいる生徒は動くに動けない。私はまだこの状況が把握できず固まっていたが、横にいる門倉は楽しそうに笑い出した。
「子グマ一匹にヘタレどもが大騒ぎか。あほくさ。あんなチビ、俺が一発で仕留めてやるよ」と、棒切れを振り回す。
「やめた方がいいっすよ、クマはやばいですって!」中沢と森田も涙声だ。
「何ビビってんだよ」
けれど直後、校舎側に逃げたはずの数人が、再び絶叫しながらグラウンドに戻ってきた。その後ろを追いかけてきたのは、最初の倍以上はありそうなクマだった。
「親グマ来やがった」
門倉の声が引きつった。
親グマはゆっくり子グマに近づいていく。自分と子グマの間付近にいる生徒が背を向けて走り出すと、急にクオ~っと甲高い声を上げ、威嚇するそぶりをする。親も子を守るために必死なのだ。
『グラウンドにクマが2頭侵入しました。グラウンドにいる皆さん、決して背を向けて走らないように、落ち着いてください。すぐに救援が来ます』
教頭の声がスピーカーから聞こえてきたが、グラウンドに閉じ込められた私たち含め10人ほどの生徒はとても落ち着いてなどいられない。そのまま10分ほど膠着状態が続いたが、子グマが動くたびに親グマも動き、あちこちから悲鳴が上がる。
「子グマが足をちょっと引きずってる。どこかで怪我したんだな。だから親も気が立ってる」
すぐ傍で、桐野の声がした。
グラウンドの端にいたはずなのに、いつの間にかこっちに来ていた。
「桐野、子グマが見えた段階で先に逃げればよかったのに」
「九条たちを残して逃げるとかありえない」
いつものトーンで言うから、逆に戸惑う。
「お~、弱虫桐ちゃん、かっこいいねえ。俺たち雑魚のことも心配してくれたんだ」門倉が中沢と森田の肩を引き寄せ、笑う。
「当り前だよ。門倉たちも大事な友達だ」
「は? 俺から逃げ回ってたヘタレ野郎が」
「だから違うってば、それは私が――」
「悪かった。もう逃げたりしない」
一瞬、心臓が掴まれたように痛んだ。
「桐野、待って!」
嫌な予感が当たった。桐野がすいと私を交わし、門倉の手をぐっと握ったのだ。
最初のコメントを投稿しよう!