それはなかった事にしてください

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「九条……」  野次馬まで集まり騒然とする中、今まで聞いたどれよりも穏やかな声で、門倉が裏山を見上げる私に声をかけてきた。  大きく呼吸して、振り返る。 「ごめん、この騒動、全部私のせい。門倉も桐野も影丸もみんなを傷つけた。全然まわり見えてないくせに、欲張りでわがままで馬鹿で……」  唐突にむせび泣く私をしばらく黙って見ていてくれた門倉は、やはりそんなに悪い奴じゃないのだと確信した。 「あいつ、強いだろ」  ぽつりと門倉が言う。 「桐野だよ。俺さ、あいつが羨ましくてさ。妬んで絡んでたんよ。クマを逃がすためにトラになったときも、ああ、こいつらしいわ、とか思った。俺頭いかれてるだろ」 「門倉」 「桐野はやべえよ。ある意味人を狂わす。魔性だよ。だから気にすることないと思うぜ」 「門倉――」 「そろそろいい時間だぞ。迎えに行くんだろ」  門倉はいつの間に拾っていたのか、抱えていた桐野の体操服を一式、私に投げてよこした。  涙があふれて止まらない。  言葉の代わりに門倉に一礼したあと、私は体操服を抱えて校門を飛び出した。
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