それはなかった事にしてください

4/23
前へ
/23ページ
次へ
「幸い2時間ほどで元に戻れることが分かった。それから門倉に接近するたび同じ現象が起きたけど、いつも進行状態は同じだった」 「そんなに何度も?」  そういえばここ最近、遅刻してきたり授業中いなかったりしたことがあった。 「これで4回目だから結構慣れてきた」 「いや、慣れないでしょ普通」 「あ……体がもとに戻りそう。ちょっと向こう向いてて」  私が慌てて背中を向けると、薄暗い部屋で一瞬発光があり、ゴソゴソと衣擦れの音がした。 「もう大丈夫だよ、お待たせ」  振り向くと、髪の毛をくしゃくしゃにした桐野がいた。ちゃんと制服姿だ。 「いったいどうしてこんなことに」 「それは僕が一番知りたい。何かの呪いにかかったか、僕の先祖にトラがいたか」 「そんなわけないでしょ」 「だよね。でも九条にバレて少し気が楽になった。とりあえず帰ろう。遅くなる」    私たちは学校を出たあと、原因をいろいろ探った。門倉にまつわる何かだろうという推測と、しばらく極力接触は避けるしかないよねというところまで話し、家の近所の三差路で別れた。  自宅に飛び込んだ私は、そのままずるずると玄関にへたり込んだ。変な汗がにじみ出る。  トラに変化する桐野が怖かったわけではない。  確信していたからだ。  桐野の変異は私のせいだと。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加