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茨木は、そう言うと、何処へともなく去っていった。と言うより、あっという間に姿が見えなくなった。
誰も追えなかった。本当にあっと言う間だったし、呆気にとられていたから。
どっちが怪異だよ。
それまで、血相を変えて今にも掴みかからんばかりだった信二までもが、狐に摘まれた様な顔で辺りをキョロキョロ見回している。
神出鬼没。鬼の様な男。
─ あぁ、だから茨木と言うのか。
何で信二を知っていた? 何でこんな夜にこんな山の中に、アイツが突然現れる? 私の幻覚か? それこそ、じゃばらさんが呼んだのか?
── でも、みんな見てた。聞いてたよね? ──
そして、誰もが思ったのではないだろうか。
自分たちの護ってきた物は一体、何なのだろうかと。
少なくとも私は思った。
─── 私の本当に大切なものは、何だったのだろうか?
多分、これまで、私は、幾度となくその判断を間違えてきたのだろう。
それでも私は、今夜、これから、最後の最後に、最も大きな二つの間違いを犯すことになるだろう。
─── そう確信している。
【じゃばらさん ─ 完】
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