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─── 六分餅 ───
六分の餅米で搗いた餅に地元特産の醤油を塗って焼き上げたもの。
香ばしくて美味しい、昔から親しんだ味。
でも、他で食べた事無い。聞いた事無いな。
昔からそうだった。
地元しか知らなかった私は、しばしば大阪で恥をかいた。
雑煮は白味噌に餡餅が入っているのが当たり前だと思っていたから、世の中で、そんなものを食べているのは自分達だけなのだと知った時、小さな事だけれども、価値観がひっくり返る程に驚いたものだ。
村の事だけを、村の行く末だけを考え、村だけを見て生きていく事が当たり前で使命だと考えていた私が、それではいけない、もっと色んな物に、もっと沢山の価値観に触れ、大きな視野で物事を捉え、その中で取捨選択をしながら村の事を考えていく方が余程建設的だと考えるようになった大阪での四年間。
そう思っていた筈だったのに。夫だって、そう言っていたじゃないか。
でも、今はやはり、この六分餅の味に舌鼓を打ち、彼らとともに酒を飲み、宴に興じる。
─── 朝から夫の姿が見当たらないのに ───
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