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「ところで、六分餅って、何で六分餅って言うんですか? 」
「そら、六分米を使うからや。まぁ、都会の人には分からんやろうね」
「へえ? 六分? 五分でも七分でもなく? 珍しい」
信二も、突然の侵入者に、警戒の色は示しながらも、それを気取られぬよう、必死で平静を装う。
みんなも同じだ。
ここにいる全員で、村を護っている。ここにいる全員が運命共同体だ。
その中に突然、異物が混入してきたのだ。拒否反応を示さない訳が無い。悪いのは無条件に、無作法に、突然表れたこの男だ。
あから様な事はできないが、早い所体よく追い出してやろう。
「隣の県に婆ちゃんが住んでましてね、まぁ、今は独りで老人ホーム的な所にいるんですけど。
結婚して、子供が出来たんで、顔でも見せてやろうと思って、車で四国に入って、通り縋らだからってんで、この辺りも見て回ろうと思ったんですよ」
何を言っているのかさっぱり分からない。
我々が知りたいのは、何でお前がこの場にいて、私達と一緒に六分餅を食べているかということなのだ。
昔からこうだ。
人の顔色を見ることはせず、自分のペースで、自分の喋りたいことを喋りたいだけ喋る。
周囲からは面白がられ、ある意味愛されては居たが、私は苦手だった。
見透かす様に人を見るから。
怖いから。
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