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私は一つ、思い違いをしていた。
摂子が「消える」とは単純に私の前から消えるとか死ぬとかという意味ではなくて、摂子がこの世に生まれなかったifの世界に分岐するという意味だった。
蝶が羽ばたけば台風が起こると言うように、ほんの少しの変革でも世界は大きく動く。
一人の人間の存在の有無が、一見関係ないところでにも影響を及ぼす。
だったら関係あるところへの影響は計り知れないわけで、摂子の唯一の友達であるこの私が、摂子が唯一の友達だったこの私が、「そのまま」でいられるわけがないのだ。
気付いたら私は薄暗く汚い部屋にいた。
一瞬パニックになりかけたが、すぐさまここが自分の部屋であると思い至る。と同時に膨大な記憶が頭の中に流れ込んでくる。
私は中学生になってから、友達が一人もできなかった。いじめられていたわけではない。クラスメイトは概ね優しかった。ただ親しくなれなかっただけ。
そんな灰色の空間で居心地の悪さが飽和し、私は学校に行けなくなった。それからずっとそのままだった。高校受験も失敗した。私はずっと、一人でこの部屋に居続けた。
「前」の世界線のことを思い出そうとするが、記憶に靄がかかっている。昨夜見た夢のようにやがて完全に忘れてしまうのだろう。唯一の友達と過ごした、不満足ながら充実した平凡な日々のことを。
私の唯一の友達…もう名前も思い出せない。
おしまい
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