消しゴムの魔女

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消しゴムマジックで消してやるのさ。 そう言って魔女は指先をちょちょいと動かした。それだけで世界は変革した。誰にも気付かれず、記録されず、消された本人すら知覚できず… 私は美知流。 普通の高校二年生。 親友の名前は摂子。中一の時に知り合って、以来ずっと一緒だ。グループワーク、移動教室、お弁当の時間、私たちは真っ先にお互いのことを探す。 摂子は地味で大人しい。人見知りで引っ込み思案だから自分から話しかけることなんてできない。 だから私が友達になってあげたの!なんて偉そうなことは言えない。だけど下心があったのは確かだ。 私も摂子ほどではないが元気溌剌な性格ではない。中学生になって、新しい環境で緊張している時、誰とも話せず俯いている摂子を見てこう思った。「この子私より暗そうだし、安全そう」 そう、私は学校でぼっちになりたくないから摂子に話しかけた。私より暗い摂子を「キープ」してグループワーク、移動教室、お弁当の時間の時にぼっち回避するために「使う」。 我ながらなかなか性格が悪いと思う。でもこれくらいみんなやってることだよね?もちろん、ぼっちが怖くない人はこんなことしないんだろうけど… そんなこんなで私と摂子は友達になって、今までずっと友達でい続けた。理由は私に他の友達ができなかったからだ。 その原因は摂子にある、と思う。勿論私の消極的な性格のせいでもあるんだけど、摂子が私に依存し過ぎているせいでもあることには違いないのだ。 中二のとき、こんなことがあった。 一週間ぐらい、摂子がインフルエンザで学校を休んだのだ。結果私は教室でぼっちになった。不運なことに、その週は体育とか英語とかグループワークのある授業が多く、私は戦々恐々としていた。 そんなとき学級委員長が手を差し伸べてくれた。いつも組んでいる優等生グループの子の誘いを断って「今日は私と組もうよ。話すの、ほとんど初めてだね」と笑顔を向けてくれたのだ。 掃除をサボるなとか置き勉はだめとか、いつも口煩く人の粗だけを探している嫌な奴思っていたけど凄く優しかった。顔立ちもヘアスタイルも地味だけど、ずっと私を気にかけてくれた。私はすっかり委員長のことが好きになって、摂子がいない一週間、ずっと委員長と行動をともにしていたのだけど、摂子が復帰してくるや否や私と委員長の間に入って怒鳴り散らした。 「美知流ちゃんと喋んないでよ!」 教室中が静まり返った。単純に大きな声、何より普段全く喋らない摂子の大きな声にみんなびっくりしたのだ。 みんなの視線が摂子に、そして摂子がしがみつく私に集まって、私は顔から火が出るほど恥ずかしかった。 以前から兆候はあったのだ。 私が他の子と喋ろうとしたり、他の子のグループに入ろうとしたら摂子がさりげなく立ち塞がる。啜り泣いたり具合が悪くなったふりをしたりして、私の気を引く。 まさか邪魔をしてるんじゃないのと思っていたのが確信に変わった。摂子は私が別の友達を作るのを阻んでいるし、私に依存している。 それはぼっちになるのが怖いとかそんなチンケな自意識ではなく、美知流は絶対私のものという強靭な自我だ。私は摂子が怖くなった。 とはいえ摂子から離れるという選択肢はなかった。やはり私はぼっちが怖かったし、私に依存して友達作りに邪魔をしてくる以外の害はないし、私より不細工で成績の悪い摂子は劣等感を感じさせない都合のいい存在だったから。 一応高校受験で摂子と離れようと試みたけど、摂子は自分の成績よりワンランク上の高校に見事合格した。 摂子は言った。 「これで高校でも一緒だね!勉強すごく頑張ったよ!」 私は目眩がした。この調子では大学までついてきそうだ。 どうにかしなければいけない。そう思い続けて私たちは高校二年生になった。摂子とクラスは違うけど、いつも一緒にお弁当を食べている。相変わらず私に他の友達はいない。 そんな折、「消しゴムの魔女」の噂を聞いた。
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