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A 命の恩人
この街に来て数週間経つと、ようやく様子が判ってきた。翼竜の襲来で壊滅的な被害を受けた故郷の村から逃れてきた自分の心の支えは、旅の途中で出会った青年ディーンだ。
俺がここでこうして生きているのは
彼が助けてくれたからだ
大袈裟だがそう思うのは、体力気力ともに尽きて行き倒れになりかけていた自分を助けてくれて、衣食住の世話をしてくれたからだ。
「これで良しっと」
魔法を動力として使いながら、積み荷を重ねる。
「リク、頑張ったね。よしよし」
「子供扱い止めろって、ディ」
彼が何歳なのかは知らないのだが、頭を撫でられるのはあまり好きではないのだ。エリクをリク、ディーンをディ、とお互い縮めた名前が呼びやすかろうと始めた習慣だが、実の所はお互いの事はよく知らない間柄だ。
「ははは」
「一一これでいい?」
「上出来。助かったよ」
瑠璃色の瞳が微笑む。優しく整った上品な顔立ちだ。
「行ってきます」
「うん。飯作っとく」
「宜しく」
街から翼竜に乗り去っていく姿は風にのり、遠くなっていく。翼竜の襲来から逃げてきたのに、それに乗る彼に助けられている皮肉。翼竜にも種類があるそうだが、その違いが自分にはまだわからない。
「さてと」
彼に恩返しをするために自分は何をすればいいのかと考えてはいるが、黒魔法で家事を手伝い、合間に黒魔法の本を読む位しか思い付かない。
箒を魔法で動かしていたが、一階と二階の掃き掃除を終わってみれば疲労していた。眠気に勝てず、ベッドに寝転んで眠りについた。
『大丈夫?』
『ゲホッ、、』
煙を吸い込んだ喉の調子が悪く咳き込んでいると、黒髪の男が瞳を合わせ、声をかけてきた。彼の瞳の白目が綺麗で、見ていると何故だか泣いていた。家族が亡くなってしまったかもしれない、あるいは行方不明なだけか、それともと考えながら泣き続けた。
『大丈夫だよ、ね、大丈夫』
『・・・』
場面が変わり、炎を手にしていた。
「うぅ…」
手から炎を消そうとして、湖に手を浸す。その後、湖と思われたものは洗面所の水とわかったがなかなか炎が消えない。自分で作った小さな火だとわかっている。わかっているのだが、故郷の村の炎が記憶に重なり怖くなった。
「消えない・・」
「大丈夫?」
「え、、?あ、うん。寝ちゃってた。はは、ごめん、これから飯を」
心配そうな視線から目をそらし笑う。
「いいよ。美味しいシチューをもらったんだ。食べよう?」
「美味そう。誰からもらったの?」
布袋からよい匂いがして鼻をひくつかせていた。
「配達先のお店の人」
「へぇ~、気があるんじゃないのぉ?」
「まさか。単なるお裾分け」
ディが器にシチューをよそいながら答えた。こういう時に思うのは、自分が自立しないと彼が困るだろうという事だった。楽しい生活だが、彼にとって人を家に呼びにくい環境なのは良くないだろうからだ。
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