酒場の求人

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酒場の求人

向かい合って食事をする相手がいるのは嬉しいけれど、それに甘えていていいものだろうか。そもそも彼は赤の他人なのだから、そのうち迷惑に思われる可能性は高いのだ。考えていると、目が合った。 「何?」 「いや、そういえば、酒場に魔物討伐の募集が出ていて」 「魔物かぁ、平和になって久しいのに珍しい」 「ゴブリンが出没しているらしい。リクさえよければ、明日にでも行ってみる?」 「えっ、、誰でも行けるの?」 「そう。退治したらそれがわかるものを持っていけば、報酬が国から出るんだよ」 村にはそういったシステムはなかったので、驚いた。それが本当なら、今こそ報償金を稼いで、ディに貢献したい。それでなくともタダ飯食らいなのだから。 「なら俺も行く!今の話だと、お前も行くのか?」 「勿論。リクが心配だからね。翼竜で行こう」 内心場所がわからないかもしれないと危ぶんでいたので、安堵した。翼竜に乗った経験が無いので不安はあるが、一人でゴブリン退治に向かうよりは数段心強い。 「実は期待してた。あはっ、助かります」 「そうなの?まぁリクは土地勘無いからね」 クスクス笑われたが仕方ない。 「しょーがないだろ。よぉし、頑張る!」 「無理しなくてもいいからね」 「いや、する」 「ふ…僕の言うことは聞かないつもり?」 苦笑いされたので、笑う。 「冗談だよ。怖い怖い」 夜が更けていく。家事が主な仕事になっている今は嫌では無いが、張り合いがない。この魔物討伐を収入面のいいきっかけにしていきたいと思った。自分の特技を活かせるかもしれない。 食事が済むと街へある大浴場へ行く事になった。村では各々の家庭で水浴びをする程度だったため、この習慣には驚いた。 「まだ緊張する」 「そう?僕がいるから大丈夫だよ。髪、洗ってあげる」 「ありがと。村ではそんな習慣無かったから」 「なるほど。ここは家庭ごとに湯をひいているとかは無いかな。王国中枢部はひいているだろうけど」 「へぇ、、」 髪を丁寧に洗ってくれている。頭皮がほぐれると同時に心もほぐれてきた気がする。前も思ったが、髪を洗うのが上手なので気持ちがいい。 「茶色の髪っていいなぁ。目、お湯はいってない?」 気配り凄いなぁ 「平気。髪は黒の方がいいじゃん。かっこいいし、俺も、黒がよかった」 「そうかな。はい、終わり!」 「ふぅ、さっぱりした~。俺も洗いまぁす♪座って」 「どうもありがと。明日は頑張らないとだから、、今日はリラックスして、寝る前にストレッチしよう」 「そーだな。魔法書も目を通しておこう」 黒髪を洗いながら見るディの横顔はカメオブローチの様だ。目がアーモンド型の自分に比べ、ディの瞳は幅があり涼しげであるし、こじんまりした自分の鼻より高さがある。 こんなに顔面整ってるのに 相手がいないとか嘘だろと思うけど 「うぷっ、それくらいでいい」 「あっ、ごめん。悪い」 目に水が少し入ったのを洗うと、こちらに向き直る。額を指で軽く押され見つめられる。 まるで魔法使いみたいだ 俺がそうだけど、攻撃魔法でも そういう心理方面はしらないし 「何か考え事?」 「あぁ、いやぁ、俺がいると邪魔じゃないのかってさ」 「邪魔?僕が、リクを?」 「えと、お前なら決まった相手がいるだろ?そういう、その、呼べないから、嫌じゃないのかと思って。そういう話」 問いかけると首をかしげてから微笑んだ。 「気を遣ってくれたんだ。でも、いないから。変な気を遣わなくていい。さ、湯に浸かろう」 「ほんとかな、りょうかい」 「本当。あの辺人が少ない」 二人で湯に浸かっていると、向こうからこちらに近づいてくる人影があった。筋骨逞しい雰囲気の赤毛の大男だ。 「ディーンじゃないか」 「マッツか。お疲れ様」 マッツと呼ばれた男はディの隣に陣取った。 挨拶しないとか 「こんばんわ」 「こんばんわ。弟か?にしちゃあ似てない」 「違う。説明しづらいな」 「俺は、、友達の友達なんですけど、こっちで暮らしたくて。田舎から出てきてて、おいてもらってます」 「へー。お前もこっち出身じゃないもんな。優しい~」 ディーンも別の所からここへ来たのか 「まぁ、そんな所かな、で、彼がエリク、彼はマッツ、同じ仕事をしているんだ」 「そうなんだ」 「宜しく。しかし、、お前、エリクだったか。少し痩せすぎじゃないか?」 「食べてるんですけど、魔法で体力持っていかれるから」 「ははぁ、そりゃ大変だ」 「あんまり虐めないでくれ。頼むよ」 「はっはは、これは失敬」 いい人そうだ 湯の温かさと会話にのんびりと手足を伸ばした。家族がいた時もこんな感じだったか、あの行き倒れ寸前になって以来、心に蓋をしていたためなかなか思い出せなくなっている。
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