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恋人です
用事は早々に済んでしまったが、ディが家に戻るまでは大分時間があるので、酒場に魔物討伐の求人でも無いものかと考えた。
行ってみよ
酒場の並ぶ通りを恐る恐る覗き、なるべく大通りに近い店舗に入った。所々にオレンジ色の照明が灯る店内で壁のボードの貼り紙をしばらく見ていると、肩をたたかれてびくりと震えた。
「さっきの」
グレンと名乗った彼だった。横に並ぶと背丈は同じ位だが、二の腕に筋肉が程よくあり、ダンサーの様な体つきだ。
「こんにちわ。俺も今日は上がるところだったから。さっき、言いかけてた事も気になったし」
「言いかけてた事って、何でしたっけ?」
「あれ?忘れてる?会ったことがなかったかって言ってたから」
「あ、あぁ、あれは」
以前の話をどう伝えようか
「あのさ、、ナンパされたのかと思って」
「えっ!?いえ、そんな。はは」
「なんだぁ。遊ぶ位ならいいよって言おうかと思っちゃったよ」
そんな風に思われていたのだ。
「はは、俺、実は変な話なんですけど、記憶が無い部分があるので。手がかりを探してるんです」
「そっか。俺こそすいません。大変だ……これ、討伐の求人だね、行くの?君、名前は?」
「エリクです。そうですね、ちょうどいいのがないかなぁって。黒魔法が少し使えるので」
「へー。すごい。これは難しそうだね、ダンジョン最下層までだって。誰が行くんだっての」
「確かに。うーん」
「これは?討伐ではないけど、庭の水やりだって」
「面接ありか」
「これは討伐ではないけど、エルフの姫の警護。でも格闘技希望」
「なるほど…」
「飲み物買ってくる」
「すいません。俺も」
飲み物を口に運びつつ、グレンと話をしながらメモしていると時間が想像より過ぎて日暮れ前になっていた。
「あ、もうこんな時間」
「帰る?」
「うん。家で、えーと、、」
ディは家族なのだろうか?それとも?
呼び名に困ってしまう。
「誰~だ?」
「わっ!ディ?」
目隠しをされて驚いたが、聞き慣れた低い滑らかな声のため、すぐにわかった。以前もこのようにふざけたことがあった。
「家の人?ですか?」
「えぇ、まぁ。貴方は?」
「今日友達になったグレンです。宜しく」
「リクがお世話になってます」
「全然」
朗らかに会話を交わす二人を目で追い微笑む。
「こちらはディーン。同居させてもらってて」
「へぇっ、兄弟?」
「ううん、えと」
困った
「僕の恋人です」
「そうなんだ!お似合いですね」
肩を組み頬を寄せるので、顔が熱くなってきた。
「ディ!何言ってんだ!冗談です。もー」
「え?どうなんですかぁ?」
「あはは」
グレンとまた会う約束をして店をでると、夕暮れが迫った紅い空が広がっていた。綺麗だが怖いとも思うのは、火事を思い出すからだろう。
「そういや、よく店わかったな」
「なんとなく。リク、髪に葉っぱついてるよ」
「一一ありがと」
顔が近いんだよ
鼓動が激しく手の平を握りしめた。
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