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第十章 楢原からの最後の連絡
前田昭雄はその日、研究所の仕事がひと段落したところで、ふと壁に掛かった時計に目をやった。時計は夜の八時を指していた。
前田は、今日が楢本の娘の法事だということを思い出していた。今頃はそれが終わって、楢本もゆっくりしている頃だろうかと思ったその時だった。その楢本から電話が掛かって来た。
「あ、前田か」
楢本のその声からは疲れが感じられた。また元奥さんと何かやらかしたのかもしれないと前田は思った。
「無事終わったかい?」
「みどりが……」
「え?」
「みどりが、いなくなった。」
「どうして?」
楢本が娘の忘れ形見として愛して止まなかったみどりがいなくなった。前田は次の言葉に詰まってしまった。
「養子に出された」
「養子に? どこへ?」
「わからない」
「わからないって?」
「俺、みどりを探すよ」
「え?」
ツー、ツー
携帯からの電話だったので、電波が突然切れたらしい。前田は楢本がすぐにでも掛け直してくるのではないかと待っていたが、それが掛かることはなかった。暫くして前田の方から楢本の携帯に何度か電話をしてみたが、それも繋がらなかった。
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