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第四章 身辺調査の開始
みどり―みどりは「嬰」とも書く。その嬰という言葉が前田昭雄は好きだった。この言葉には、枠を守って出ないという意味がある。それはまさに前田の生き方だったからだ。
前田はその日、楢本からの突然の電話で目が覚めた。それは、楢本の娘が失踪したという内容だった。前田は、咄嗟に彼女が何か事件にでも巻き込まれたのではないかと思った。しかし、それから少し間を置いて、「今娘は岡山にいる」と楢本が語った。前田はそれを聞いてとりあえず安心をしたが、今度はその失踪の理由が知りたくなった。
岡山と言えば、彼女の実家があるところである。大学をほっぽらかして、その実家に戻るなんて、何か大病にでも罹ったのかと思ったが、その理由を楢本は決して語らなかった。
前田の勤めていた研究所は、機密保持に関してとても厳しい扱いが行われていた。そしてその一環として、入所予定者全員の身辺調査をすることになっていた。
折しも、「西山記者事件」と呼ばれる外務省機密漏洩事件が、世間を賑わせていた時だった。その事件は、異性関係から女性外務事務官が機密事項を男性記者に漏らしてしまったというものだった。その事件がきっかけで、K研究所では入所予定者の異性関係を調査し、それに問題がある場合には他の理由を挙げて不採用にすることを行っていた。
ただ前田は、楢本の娘に関してはその異性関係の調査は必要がないと思っていた。前田の親友で幼馴染でもある人物の娘であり、自分が身元保証人を買って出た子の調査をしたところで、一体何が出て来るのかと思ったからだ。しかし、規則は規則だということで、結局彼女の身辺調査は行われることになった。
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