春の嵐、再び

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春の嵐、再び

 その土日は、実に平穏な週末だった。  俺が落ち込んでいることを察したあわいさんが、ちょっと良い肉でローストビーフを作ってくれた。  あわいさんいわく、怪我をしたときはとにかく肉! 落ち込んだ時もとにかく肉! 肉を食え! ……らしい。  俺も俺で、怪我をしているから安静にしようということで、積んでいたゲームを遊びに遊んだ。自堕落で充実した土日だったと思う。  ただ、全身が痛いのだけは参った。薬局で売っている、治癒魔法付与の湿布を貼っておけば、打ち身なんて1日で完治するんだが……俺のスキル、アンチ・ダンジョンは、ダンジョン由来のものの一切を拒絶する。付与された治癒魔法をバッチリ拒絶して、結局普通の湿布と同じ効果しか得られない。  病院で処方されるような、もっと魔法効果の高い湿布なら、俺のスキルでも打ち消しきれないんだろうが、そこまでするほどじゃないし。  というわけで、月曜になってもまだ全身が痛む中、俺は学校に向かう。実に気が重い。  教室で国木に会ったら、何を言われるか、何をされるか分かったもんじゃない。かといってサボりは、逃げたみたいで癪だし。  などと、色々考えながら登校したわけだけど、意外にも国木は一切俺に絡んでこようとはしなかった。反撃されて怯んだか、俺をいじるのに飽きたのか。  ……なんて考えが甘かったことを、俺はこの日の放課後に思い知ることになる。 ***  今日も放課後になると、旧西校舎に形成されたダンジョンが解放される。学生たちは免許証を携えて受付を済ませ、ダンジョンの奥へと向かう。  俺は吉野さんの受付業務を手伝い、ダンジョンから出てくるパーティに不正持ち出しの検査をする。  いつもと変わらない、俺の冴えない放課後だ。  17時半を過ぎ、18時を過ぎると、ほとんどのパーティはダンジョン探索を終え、受付まで戻ってくる。18時半が帰還刻限で、それまでに戻らなければ懲罰点(ペナルティポイント)が付与される。  帰還刻限のチャイムが鳴ったあとは、その日の業務のまとめだとか後片付けをする時間……なのだが。 「ん、まだ1組、戻ってきていないな」  吉野さんが呟いた。そして、パーティリストを確認して、大きな溜め息をつく。 「彼のパーティだ。問題の多い生徒だな」  彼というのは、国木のことだ。確かに今日、ダンジョンに入っていくのは見たが、出てきたところはまだ見ていない。  ちょっと待っていなさい、と俺に言って、吉野さんはダンジョンの入り口へ歩いて行った。座標特定スキルを使って居場所を割り出し、転移スキルで捕まえに行って、連れ戻してくるつもりなんだろう。ものの3分もかからないはずだ。 (吉野さん怒らすと怖いんだよな。怒んなくても顔怖いけど……)  俺はやることがなくなったので、頬杖をつきながら、今日まとめる書類の再確認をする。  入人数と出人数の照合、持ち出し物の一覧、ダンジョン内の新規探索マップ……。 (……ん? あいつのパーティ、今日は2人なのか)  国木の提出したパーティリストは、総人数2名で提出されていた。いつもは取り巻きを2人連れて、合計3人のパーティなのに。今日の書類には「班長:国木直久(なおひさ)・班員合計:2名」と書かれている。  取り巻きのどっちかが、病欠か何かかな。書類の詳細を見ようとした時、突然、俺の背後に誰かが立った。  吉野さん? いや、違う。  俺が振り向くより早く、そいつが俺の襟首を捕まえた。ぐいっと引っ張られるような感覚がして――視界が、暗転した。
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