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夜の街にいれば、神田と初めて会った時みたいに偶然会って流れで話せるかもしれない。
我ながらいい案だと自画自賛する。
早速、夜になってから初めて会った場所を歩いてみた。しかし、思っていたよりも肌寒くて、薄着できてしまった俺は凍え死にそうになっている。
「くそぅ……」
全然現れないから、悔し涙が出そうになると、ふわっと服を肩にかけられる。
「……なにしてんの。ナンパ待ち?」
服をかけてくれたのは神田だった。
「ち、違う!けど……なんで上着」
「死にそうな顔してたから」
それはオーバーだろとツッコミを入れたくなったが、きっと寒いのを察してかけてくれたんだろうと思ったら、ちょろいけど嬉しくなった。
それに、本当に会えたし普通に話せてる。
「良い子は早くお家に帰りな。じゃあね」
そう言って俺に背を向ける。
そんな姿を見て、もう二度と会えなくなりそうな気がして怖くなる。
咄嗟に追いかけようとしたその瞬間、段差に足を引っ掛けた。
あ。転ぶ。
ズサーっと派手にかましてしまった。
膝に痛みを感じながらも体を起こした。
「……いってぇ……」
前からクスクスと笑い声が聞こえる。
声が聞こえる方を見ると、神田が口を手で隠して笑いを堪えている。
俺はその瞬間、恥ずかしさと怒りで顔に火がついてそうなくらいに熱くなって言い放った。
「わ、わらうなよっ!!!」
「いやそれは無理」
顔を背けて爆笑する神田を見て、なんだかすごく自分が惨めになってきた。
「わらってんなよ……俺がどんな思いで」
そして視界が歪んで、温い液体が顔を蔦る。
「……なんでこんな奴、好きになっちゃったんだ」
知りたくなかった、認めたくなかった。
それでも本当の気持ち。
これが神田に対する正直な思いなんだ。
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