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あれから約一ヶ月経ち、神田はよく絡んでくるようになった。しかも何かとからかってくるのだ。出会い方があんなだし、元々俺がどじを踏むことが多いのは認める。
でもだからってからかっていい訳じゃないだろ!
そんな事を考えていると、遅刻常習犯の神田は五限が始まるチャイムと同時に教室に入ってきた。
「……五限に来るくらいなら来なくていいだろ」
「俺の事嫌がってる割には結構話しかけてくれるよね」
「なっ。別に話しかけてねーし!」
つい声が大きくなってしまい、先生に怒られる。
すると教室に笑いが起こり、恥ずかしさがこみ上げてきた。神田はにやけ顔で俺を見ているし、完全にバカにされている。
五限が終わってロッカーへ向かおうとした時、神田の席に目がいった。机には教科書も筆記用具も置いてなくて、一体何しに来たんだと心底思った。
「なに見てんの」
席に座ったまま、眠そうにこちらを見つめる。
その時、初めて気づいた。
いつもより顔色が良くない。ほんの僅かだがひょっとしたら体調が悪いのかもしれないと思い、咄嗟に問いかける。
「もしかして具合悪い?」
「いや別に」
そう言うと目を逸らした。
「……お前、嘘ついたろ」
神田が強がったように見えた俺は、そのまま放って置けなかった。
「きつい時は強がんないでちゃんと言えよ。無理して悪化したら元も子もないだろ!」
体調悪いくせに学校くるんじゃねぇとも思ったが、まずは保健室に連れて行こうと神田の手を引いて歩き出した。保健室に着いてすぐに熱を測らせると、三十七度八分。
熱が高いわりに、顔にあまり出ない事を心配に思う。
「ほまれちゃんって困ってる人放っておけないとか正義感強い系の人なの?」
「はぁ?なに急に……別に見つけちまったら見過ごせないだけ。てかお前なんで学校来たんだよ?」
「……なんかだりーとは思ってたけど。熱とか気づかなかったわ」
「じゃあなんで目逸らしたんだよ」
「あー……癖?」
「なんだそりゃ。自分のこと全然分かんないんだな」
軽い口調でそう言ったが、神田は黙った。
その沈黙を打ち破るように寝てろと言い放ち、教室に戻る。さっきは単に無視しただけかもしれないが、無表情だし、反応が謎だ。
神田に関われば関わるほど謎は深まって、なぜだか余計に気になってしまう。
そのせいで六限の授業は集中出来ないし、あいつに関わると本当にろくな事がない。
ホームルームが終わった後、もう帰ったかもしれないが、一応確認のため保健室に寄る事にした。
そぉっとベットを覗くと、神田はまだ眠っていた。
静かに寝息を立て、寝ているだけなのに整った顔が際立っていた。寝顔はまあまあ可愛いじゃんかと思う。普段もこれくらい大人しかったらいいのにと考えていると、俺に気がついたのかもぞもぞと起き上がった。
「ふぁ……すげー寝た気がする……」
欠伸をしながらそう言う。
「いつまで寝てんだ。もう放課後だよ」
「寝てろって言ったくせに」
そうだったと思い出し、気まずくなると神田はくすくすと笑う。
「な、なんで笑うんだよ!」
「帰るわ。ほまれちゃんの芸も見れたし」
「なっ。芸なんかしてないだろ!」
必死で否定したら、また笑われたがやっぱり少し元気がない。神田は教室に荷物を取りに行こうと歩き出したが、ガンッとドアに頭をぶつける。
しかも、ふらふらして危なっかしい。教室まで行くのも精一杯なんじゃと思った時、引き止めてここで待ってろと言った。
「取ってきたぞ……お前ちゃんと帰れんのか?」
「……何。一緒に帰りたいの?」
その聞き方にはムカついたが、内心かなり迷う。神田と一緒に帰るなんて、普通だったら絶対に嫌だ。でも歩くのもふらふらなのに、一人で帰らせて事故にでもあったら後味が悪い。
どうしよう……。
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