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結局、着いてきてしまった。
しかし断じて一緒に帰ってるわけではない。
これは一種の監視なのだ。現に信号は赤なのに渡りそうになるし、電柱にぶつかりそうになるし、危なっかしくてとても一人じゃ歩かせられない。
そして十五分くらいしたところで、いきなり神田が俺の腕を掴んだ。
「なにっ?」
「ここ」
そう言って、通り過ぎそうになったマンションを指さした。だから腕を掴んだのかと気づいたが、何かされると勘違いして過剰反応してしまい一人で恥ずかしくなった。部屋までは着いていこうと、エレベーターに乗るとゴンッと鈍い音。どうやら神田が壁に頭をぶつけたらしい。
「……あーぼんやりする」
「なにしてんだよ。大人しくしてろよバカ」
流石にきつそうな顔になってきた神田を部屋のベットまで送り届ける。そして場所を聞いてから冷えピタ、薬、水を持ってきた。
「薬飲んで安静にすんだぞ」
俺の役目は終わったから静かに帰ろうとすると、横になった神田に手を掴まれる。
「……帰んの」
「お、おう。送り届けたし」
一瞬引き止められたのかと思ったが、そんな事よりさっきより手が熱い。そんな事を考えていると突然腕を引っ張られ、神田の上に倒れてしまった。
「おいっ!急に引っ張るなよ……神田?」
「さっき思ったけど。なんかいい匂いする……」
耳元で、そんな事を言われる。
少しかすれたいつもより低い声に驚くと同時に、不意に顔が熱くなる。俺は神田から離れようとしたが、手をがっしり掴まれていて無理だった。
「お、おい神田っ……手、離せよ……!」
は……?こいつ寝てる……?!
一体どんな原理で手に力入れたまま寝てるのか分からないが無理矢理起こすのも気が引けて、帰れなくなってしまった。体調悪いのにわざわざ起こして悪化したら嫌だしと、諦めてベッドの横に座った。
そして、今更気がついた。
俺いつから、こんなにドキドキしてるんだ。
「……んん……?やべ。寝ちまった!!!」
どうやらあのまま寝てしまっていたらしい。ベッドに神田はいなくて、知らない内に背中に掛け布団がかけられていた。
「独り言でか」
「あ。お前俺の手握ったまま寝やがってっ!」
「ほまれちゃんもそのまま寝たじゃん」
俺が口ごもると、から笑いをした。
「熱は?」
「さっき測ったけどあんま下がってなかった」
「はぁ?薬飲んだのかよ?」
「さっき飲んだ」
「じゃあ今度こそちゃんと寝ろっ!」
そう言って荷物を持って帰ろうとすると、ベッドから神田が言った。
「ありがとほまれちゃん」
「別に。なんもしてないし……帰る」
神田でもありがとうとか言えるんだ。
元のイメージが悪すぎるせいか、そんな普通の事が少し嬉しく思えた。
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