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少しだけ吹っ切れていつもの調子で話し出す。
「別に手出されても、適当にしてると思わないし」
「は。触るとキレんじゃん」
「急すぎんだよっ……俺だって心の準備ってもんがあるのに!」
「あー。そういや毎回泣いてたっけ」
これに至っては、気持ち良くなって勝手に涙が出てくる。なんて死んでも言えない。
最近になってあまり触れてこなくなった理由を知れて、すっきりする反面、今まで気づかなかった自分の欲が丸見えでかなり恥ずかしい。
「要するに。ほまれちゃんは最近俺に触ってもらえなくて拗ねてたのか」
確かにそういう事になってしまうけど、言葉にしてみるとただの欲求不満で腑甲斐無い。
でも恥を忍んで、今一番して欲しいことをお願いをしてみようとする。
「神田」
「ん?」
「ぎゅー……て。していい……?」
そう言ってからちょっと間が空くと、神田は吹き出した。泣きながらの大笑いに腹が立つが、お願いした立場だから羞恥心を抑えて、笑うなとしか言えなかった。
「はぁいいねーほまれちゃん。家来た時も物欲しそうな顔してたもんね」
何も言われなかったから隠せたと思っていたのに、しっかり気付かれていた。
「どうしよっかなー俺の努力否定されたしなー」
ニヤニヤと笑みを浮かべる姿は、まさしく悪魔で抗う術もない。本当に大事にされてるのかと疑問に思ったが、神田は自分なりに向き合おうとしてくれているんだろう。
笑われたからもういいと言ってその場を後にしようとすると、ぐいっと引き寄せられる。
その瞬間、甘い匂いが溢れる。
久しぶりの抱擁に神田を近くに感じて、心が満たされていくのが分かる。いつからこんなに心地良く思うようになっただろう。
この匂いが好き。
力強く抱きしめてくれるのが好き。
神田がたまらなく好き。
その思いが伝わるように強く抱きしめ返した。
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