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変化
休日明け、俺は神田に迫られている。
「ほまれちゃん、叶になに言われたの。」
執拗い。
本当に執拗い。
ずっとこれしか言わないのだ。
結局気持ちの答えは出せず、とりあえず胸の内に秘めておくことにした。
「もしかして叶に惚れた?」
「……は?」
「あいつはやめとけよ。ろくな奴じゃない」
的外れにも程があるだろう。
それに、叶さんは神田のことを心配してくれているのになんて言い草だ。
「お前のこと心配してくれてんだから、そんな風に言うなよ」
そう言うと、神田の表情が少し曇った。
「……なんか聞いた?」
さっきまでとは打って変わって、真剣な面持ちでそう聞く。嘘をついても仕方ないと思い、正直に話す。
「叶さんの憶測って言ってたけど、中学の時から信用できる人いなくなったとか。色々」
流石に俺がどうとかは言えなかったが趣旨は伝わるだろう。俺が話し終えると神田は目を逸らした。
「聞かねーの?なんでそうなったのか」
終始目を合わさずに話し続ける姿は、なんだか消えてしまいそうな儚さがあった。
「……聞いてほしいのか?」
神田は黙った。
俺はその壁とも思える沈黙を破り、話し出す。
「俺は人の過去にとやかく口出したくない。聞かれたら嫌な事もあるし、知られたくない事もあるだろ。お前が本当に話したくなった時は聞くけど、無理に聞き出したりは、絶対しない」
話し終わってからハッとする。
思ってること全部素直に言いすぎた。
なんとなく顔を合わせずらくなって、後ろを向く。また勢いでものを言ってしまったと後悔していると、唐突に後ろから抱きしめられる。
「か、かんだっ……?」
「……俺ほまれちゃんがそばにいればいいや」
その言葉を聞いて、腕の中でくるっと回って振り返る。
「ダメ!神田が信用できるくらい良い奴もいっぱいいる!だから……殻に閉じこもっちゃダメだ!」
そう言い放つと驚いた顔をした後に吹き出した。
「殻に閉じこもるって」
「そ、それは例えでっ!」
「分かってるよ。ちゃんとお友達信用しろって事でしょ。でもさ……もし、裏切られたら?」
「その時は、俺がそいつをぶん殴る!」
そう言うと神田は優しい笑顔を見せた。
初めて見たその表情は、
俺の心を乱すには十分だった。
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