✜09 紅髪、灼眼の獣人

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「なぜアナタは襲われない?」 「それは秘密ですな」  これは予想だが、奴隷商を襲えないよう首輪で拘束しているのであろう。  鉄格子の鍵を開けると、さっと立ち上がり、片足に嵌められている鉄球付きの枷をブンゲルに外してもらう。  廊下は先ほどと打って変わってとても静かで、先ほどあれほど熱狂的に手を出して、自分を選んでくれとアピールしていたのに鉄格子のなかにいる獣人の女性たちはコチラを見ようともしていない。 「アラタだ、よろしく!」 「……」 「鉄格子のなかに戻りたいのですかな?」 「……ヤコ」  自己紹介したが、無視された。すぐにブンゲルからひと言受けて名前だけ名乗った。 「シュリ、ヤコさんだ」 「初めましてシュリと申します」 「……ああ、よろしく」  シュリを見て、終始不機嫌そうだったヤコの表情が揺らいだ気がした。でも一瞬だったので、元の一貫して不愛想な顔つきになったので気のせいかもしれない。 「どうやらお前はその辺のクズな連中とは違うようだな?」 「と言うと?」 「この子を見てわかった。奴隷を大切にしているってな」  3人で、奴隷商の店からどこにも寄らずに真っすぐ街を出て、森のなかへ入った。どうやら怪しい連中に後を尾けられているとヤコから教えてもらった……。  ブンゲルの手の者か。だが、あの男は奴隷商ではあるが、仮にも商人を名乗っている。信用を落とすような真似はけっしてしないはずだが。  ヤコへ武器の扱いはなにが得意か聞くと剣なら何でもいいと返事があったので、ブロードソードを作って渡した。会話を交わしながら、そろそろ襲ってきそうなので、作戦を立てる。 「5人(・・)だな」 「全員、武装してる?」 「ああ、弓使いがふたり混じっている」 「じゃ行くよ!」  ブロードソードの質感や握り具合を確認しながら、ヤコがそう答え、合図と同時に3人とも素早く近くの木の裏へ身を隠した。 「前の3人を引き付けてくれたら後ろのふたりはアタイが倒す」 「わかった。シュリはクロスボウで援護、状況に応じて魔法を使って」 「はい、わかりました」  こちらを見失った追跡者があわてて近づいてきたので、行動に移した。木の裏から飛び出して、剣や斧を持った冒険者風の男の注意を引く。その間にヤコが木々の幹を蹴って、枝に飛び乗り、枝から枝へ飛び移り、奥の方へと移動していった。
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