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球の中の場面が変わった。右上に暦が表示されているが、1週間が経過している。おそらくイベントが1週間ごとに発生して、数々の選択した内容によって皇子との婚約が成立するかどうかが、決まるんだと思う。
悪役令嬢レイシアもミケル皇子に想いを抱いているが、皇子の方はというと、性格のきついレイシアが苦手らしく、敬遠しがち。主人公である自分達のマイキャラばかりに構うので、嫉妬の炎を燃やしに燃やして悪役令嬢ぶりを存分に発揮する。
度重なる嫌がらせ。主人公がボッチになるよう、まわりに無視するよう働きかけたり、陰で悪口を言ったりと、なかなか味な真似をしてくれるが、所詮ゲームの中での話。自分は耐性があるので、別に気にならないが、シュリは「はわわわわッ」とずっと悪役令嬢に振り回され、ヤコは「そこから出てこい! アタイがぶっ飛ばしてやる!?」とゲームの中の悪役令嬢にキレている。やっぱダメだな、このふたり……。
しかし、自分は違う。ジャンルは違えどゲームはゲーム。序盤でゲームの本質を見抜いて、群がる邪魔者を排除し、あざとく強かな選択をしていく。欧米の強力な掃除機が如く皇子の心を吸引しまくること半年。皇子の好感度が早くもMAXに達し、婚約イベントが発生した。
「アラタ……ボクと結婚してくれ!」
自分の名前がそのままキャラ名なのはちょっとイヤだな。だが、ゲームもすでに最終局面まできている。不満はあるが、ゲーム進行を優先すべくコマンド画面を確認する。
【コマンド】───────────────
➤「はい、喜んで!」
「すこし、考えさせてください」
─────────────────────
なにこれ? 皇子攻略がこのゲームの目的なのに断る選択肢っている? もちろん「はい、喜んで!」を選択した。
「キミに話しておかないといけないことがある……」
なんだろう、まだ続きがあるのかな?
「実は我がユリウス家は代々、借金を多く抱えていてボクの代で全額返さないといけないんだ!」
ミケルの父王から数代に遡って途費がはげしく、財政難に陥っている現状をさらに赤字国債を発行しまくって今日まで凌いできたが、もう限界に近いそうだ。
「だから、キミも一生懸命、ボクの……いや、国のために働いてくれ!」
【コマンド】───────────────
➤婚約破棄を言い渡す
「はい、喜んで!」
─────────────────────
ふっ、このゲームを作ったヤツ、ひとが悪いな、あとで自分の気が済むまでアイアンクローをお見舞いしてやろう。
ゲームの中の話……だが、これは一択しかなかった。「やっぱりアナタとは結婚できない」と、婚約破棄を言い渡すと、謀反の罪で一生牢獄へ繋いでやると脅しをかけてきたので、次のコマンド選択で「知るかボケェェェ!」を選び、皇子に豪快なアッパーカットを喰らわせて、そのまま国外逃亡してバッドエンドで終わってしまった。
「どうじゃ? おもしろかったであろう」
「これ、サクラが作ったの」
「自慢ではないが、妾の傑作じゃ、どれ、感想を述べてみい?」
「知るかボケェェェ!」
「ちょっ、タンマじゃ、あいたたたたっ」
この実に素晴らしいクソゲーを作った頭のおかしいゲーム制作者にゲーム中と同じオチとして、アイアンクローを喰らわせてあげた。
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