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「おまえ達はアラタ様の手の者か?」
湖から離れてすぐの場所……まったく気配に気が付かなかった。背後にいつの間にかラミアが立っていた。それもただのラミアではなく「覚醒」済みの個体なので、1体倒すのも小隊を少なくとも5つは欲しい高難度ダンジョンの階層主級の相手。
アラタ様? そいつがプレイヤーの名前か。
「それとも冒険者の街の者か?」
なぜわざわざそんなことを聞いてくる? 間違った答えを出した途端、襲い掛かってきそうなので、返事をせずに走ってこの場を去るのが、正解とみた。
(彼奴等はアラタの敵じゃ、愚か者!)
「うっさいわね! 言われなくてもわかってましたぁー」
頭のなかで声が聞こえた。念話か……こんな芸当をできるのは、サーバーでも最強クラスのボスしか思いつかない……。その念話を受けると、ラミアが急に大声でわめき出した。くそっ戦うしかないか。
「姉さん、そいつらこの島で見たことない種族だね」
「敵なんだからどうでもいいでしょ」
「間違ってたらあの【狂った迷宮主】に責任を押し付ければいいわ」
おいおい、何体いるんだよ……。
最初から囲まれていた。茂みに潜んでいたラミアが次々とその姿を現す。計8体の覚醒済みのラミア……正直勝てるとは到底思えない。
「あれ? ラミアの皆、なんでこんなところに?」
「アラタ様ぁぁ♪」
アラタ様? ってことはコイツが?
道のない茂みの中から男が顔を出した。見た感じは隙だらけで、警戒する素振りさえない。だが……。
「チャンス、俺が殺った!」
「やめろ馬鹿ッ!?」
小隊のひとりが、プレイヤーをキルしようとして、あっさりとプレイヤーの隣にいた虎型の獣人の拳で腹を殴られ、原型が維持できないほどぐちゃぐちゃになって消えた。一撃で強制送還って、まわりのラミアよりヤバすぎだろ?
目の前の男がこのサーバーのプレイヤー。それは間違いない。観察眼スキルを持っている仲間に目で合図をしたが、首を横に振った。ステータスを盗み見できないって、どんだけ精神抵抗値が高いんだよ?
(アラタ、其奴らを妾の元へ連れてくるのじゃ)
また頭に直接響く声、プレイヤーは「なんで?」と声の主に聞き返す。
(なに、ちょっと脳みそをイジって目的を暴いてやろうかと思ってのう)
鳥肌が立った。このサーバーはヤバい。なにもかもが、これまでとまったく違う。侵攻が失敗するどころか、自分達のサーバーさえ、危険かもしれない。
「リーダーどうする?」
この場をどうするのか指示を求められた。この小隊のリーダーをやっている俺は振り返って仲間へ伝えた。
「今すぐ帰還しろ!」
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