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「私の古い友人にね、キヨマサという人がいるの」
カリエテさんの話によると、キヨマサとは、この島にダンジョンを作った日本という異世界からこの世界へやってきた人物。そして彼女の話を聞く限り、ふたりは恋仲だったのではないだろうか……。
「たしか『ヒゴ』の国を治めていたと言っていたかしら?」
ヒゴ……肥後の国、えーとどこだっけ? 九州あたりだったかな。昔の人なんだ。
「築城と土木の名人で、『ヒデヨシ』という人物に仕えていたと言っていたわ」
ヒデヨシって、歴史の授業で習ったのは一人しかいない……。そうするとキヨマサって、名字はちゃんと思い出せないけど、佐藤だか加藤だかの清正っていう戦国武将!? あんま歴史に興味がないから、はっきりとは思いだせないけど、歴史シミュレーションゲームでは、たしかカッコいい槍を持っていたのだけは覚えている。
「彼はダンジョンをそれはもう一心不乱に作っていたわ」
この島には元々、なにもなかったが、キヨマサという人物が、大量のダンジョンを作りまくったそうだ。そのダンジョンを狙って他所の異なる世界からやってくる侵略者を自慢の片鍵槍ですべて返り討ちにしていたと、カリエテさん本人は気が付いてないかもしれないが相好を崩しながら懐かしそうに語ってくれた。
「でも彼が亡くなってからは、この島はずいぶんと荒らされたわ」
他の世界から幾度となく侵略者がやってきて、綺麗に整備された島は荒廃した魔物が無秩序に徘徊する島になってしまったと話す。
「彼から権限を譲り受けたけど、私ではダメなの……」
彼女は元々、キヨマサが作り出したレイド級ボス。権限を使えない彼女は侵略者に島を奪われないよう、地底にある溶岩湖で、永遠に解けない狂化魔法を己に施し、ステータスを限界以上に底上げして、侵略者が襲撃してきても最後の拠点だけはずっと守り通してきたそうだ。
目の前にいるカリエテさんは、自分を与えられた役割以上の存在へと強制的に昇華させる狂化魔法を使った代償で肉体と分離してしまった魂だけの存在で、古龍カリエテは今なお溶岩湖で、主なきこの島を守っていると教えてくれた。
「でも、もう大丈夫。新しい管理者が来てくれたんだもの」
カリエテさんの姿が気のせいか、すこし透けて見える気がする。
「侵略者とはまだ戦ってはダメ」
侵略者の中には、相手を封じ込めるのが得意な使い手がいるそう。生命力が無限大な自分でも異空間へ閉じ込められたら、死ぬまでそこから出られない恐れもある。これを破るには「管理者権限の解除」が必要だと教えてくれた。
「そろそろ時間がきたみたい……最期のお願いを聞いてくれるかしら?」
クッキーも紅茶もいつの間にか空になったテーブルを挟んでカリエテさんから頼まれた。
「私の本体……管理者代行である古龍カリエテを倒して」
そう話すと、カリエテさんの魂は無数の蛍のように静かに宙を舞い、淡く点滅を繰り返し、やがて消えていった。
──まるで星々という物言わぬ語り部たちが、夜空で煌めくことで、空を見上げるものへ伝言を残すように……。
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