アツシワジョージィの異世界ダンジョン探訪記

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 異世界各地のダンジョンをご紹介する『アツシワジョージィの異世界ダンジョン探訪記』のお時間がやって参りました。お送りするナビゲーターは私アツシワジョージィ。皆さま、どうぞよろしくお願いいたします。  続きまして本日のゲストをご紹介いたします。アイドル冒険者グループで活躍中のタレント、プリンセス・プリンセルさんです。 「おはようございます! アイドル冒険者グループから来ましたプリンセス・プリンセルです。今日はよろしくお願いします」  どうもどうも、お久しぶりです。元気にしましたか? 「はい、おかげさまで」  プリンセス・プリンセルさんはアイドル冒険者グループのメンバーということですが、このアイドル冒険者グループの活動についてお話ししていただけますか? 「はい。私たちアイドル冒険者グループは、フリーなオープンワールドを探索したり、様々なダンジョンに侵入して宝物をゲットするクエストをしながらアイドル活動に汗を流す女の子の集まりです。幾つかのグループに分かれているのですが、私はその中の<愛と黄金の薔薇女騎士団>というパーティーで活動しています。今回はグループを代表してやってまいりました」  プリンセス・プリンセルさんのいらっしゃる”愛と黄金の薔薇女騎士団”は、何人で活動中なのです? 「リーダーの第一女勇者、サブリーダーの第二女勇者、女戦士が二人、女賢者、女魔法使い、女盗賊の私で合計七人です」  公の場で自分が盗賊であると公言するのも珍しいですね(笑い)。 「そうですね(笑い)。ファンタジー世界ならではだなって自分でも思います」  それと、名称が<愛と黄金の薔薇女騎士団>なんですけど、騎士が一人もいませんね。 「あ……実は、一人いたんです。センターの女の子ですけど。それが規約違反を起こしてしまって、今は活動自粛中です」  まずいこと聞いちゃったかな? 「どうでしょう(ニコッと営業スマイル)」  さあ、気を取り直していきましょう! プリンセス・プリンセルさんのご紹介が済んだところで、本日一つ目のダンジョンに参りましょうか。本日一本目のダンジョンは、異世界の世田谷区某所にある知る人ぞ知る的な地下迷宮とのことですが、どのようなところなのでしょうか? 冒険の書をひもといてみましょう! ・大量の宝箱があるが、99%がミミックというダンジョン。しかし1%には、とんでもないお宝が入っているらしく……!?  ハーフエルフのダガムビイシュは普通の人間より耐毒性がある。それでも体が痺れて動けないのだから、先ほど斃したミミックの毒は極めて強力だったと考えていいだろう。  死んだミミックの隣に突っ伏してもがいているダガムビイシュを、重装歩兵のタランチュラ・マギーが嘲笑う。 「はーはっはっはあ、だから最初に言ったんだよ! ここの宝箱には、不用意に近づくなってなあ! ほとんどが宝箱に擬態した怪物のミミックなんだよ! 人がせっかく忠告してやってんのによお、ばかじゃんね、お前。な~にが”俺の身体はヒューマンとは違う”だよ。カッコつけといて、これかよ! フラグかよ。なんだかねえ。いやはや、ホントに、なんなんだかねえ!」  チームリーダーの魔道士シュレリアマイレが渋面を作って言った。 「よさないかタランチュラ・マギー。エケイロゾムウ、手当を頼む」  ボスに命じられた私はダガムビイシュの傍らにしゃがみこんだ。 「ダガムビイシュ、聞こえるか? 私の言っていることが分かるか? 分かったなら頷け」  ダガムビイシュは何度か頷いて見せた。私は次の質問をした。 「解毒剤がある。飲めるか?」  今度もダガムビイシュは何度か頷いて見せたが、この解毒剤を飲むのは無理かもしれないと私は思った。 「言っておくがダガムビイシュ、この解毒剤は酷く不味いぞ。このダンジョンに入る前、念のために解毒剤を毒見してみたんだが、物凄く苦かった。人間の私でさえ苦かったんだ、味覚が鋭敏なエルフの血を引くお前なら、もっと苦く感じるだろう。それこそ、猛毒を飲んでしまったのと同じくらいの苦しみを味わうかもしれない……だが、このままなら死ぬかもしれない。いいな。さ、仰向けになれ」  私はダガムビイシュを助けて、その体を仰向けにしてやった。そして解毒剤の入った薬瓶を口元に近づける。しかしダガムビイシュは頑として口を開こうとしなかった。 「どうしたダガムビイシュ、早く口を開けろ」  私は口を開くよう促したが、ダガムビイシュは首を横に振った。 「解毒剤を飲まないと、死ぬかもしれないんだぞ。それでも構わないのか?」  ダガムビイシュの唇が動いた。何か言っているようだ。 「何が言いたいんだ? はっきり言えよ」 「苦いのは嫌だって言ってる」  私の隣で様子を見ていた幻神魔獣遣いのノーパーマアマヌが言った。 「そんな苦い物を飲むのはごめんだってさ」  それを聞いてダガムビイシュは何度も頷いた。体は痺れて動かなくても、意識も聴力もしっかりしているようだ。解毒剤は絶対に飲みたくないという意志もはっきりしている。  私はチームリーダーの魔道士シュレリアマイレに尋ねた。 「ボス、どうします? 本人は嫌がってますけど、解毒剤」  シュレリアマイレは直接ダガムビイシュに言った。 「早く解毒剤を飲め」  ダガムビイシュは首を横に振った。シュレリアマイレの渋面が皴の深さを増した。 「わがままを言うな、面倒をかけるな、早く飲むんだ」  それでもダガムビイシュは解毒剤を飲もうとしなかった。シュレリアマイレは私に言った。 「口を開けて無理に飲ませろ」  私は言った。 「苦いから吐き出すかもしれません」  商人のアプレマイオスが口を挟む。 「待て、その薬、待った。それな、めっちゃ高かった。それを吐き出す? ありえない。そんなの、ありえない。飲ますな。絶対に飲ますな。そんな奴のために、皆の金で買った薬、飲ませるな」  幻神魔獣遣いのノーパーマアマヌはダガムビイシュの顔色を見て、こう判断した。 「前よりもいい感じだ。だんだん血の気が戻ってきた。しばらく様子を見たらどうだろう?」 「このまま、ここで? 何もしないで放置するのか? 大丈夫かよ」 「エケイロゾムウ、薬師のあんたは薬の解毒剤を飲ませた方が良いと思うんだろうけど、何もしないで良くなるんなら、放置でいいんじゃないかな」  そう言うノーパーマアマヌに商人のアプレマイオスは同意した。 「自然の免疫力で治そう! それが一番安上がりだぜ!」  意見が分かれた。私はチームのまとめ役であるシュレリアマイレの指示を仰いだ。 「どうするボス。アンタの命令に従うよ」  シュレリアマイレは頬の髭を撫でた。それは考え事しているときの癖だった。  ミミックの毒からの回復時間はどのくらいだろう、とシュレリアマイレは私に尋ねてきた。分からない、と答えるしかなかった。ここで休息を取って、様子を見るほかないだろう。休んでいれば、いずれは回復するはずだ。ただし、それがどのくらいの時間なのか、それが分からない。  アプレマイオスが唇を舐めた。 「休憩時間の間に、他のチームが本物の宝箱を開けてしまうかもしれん。ほんのわずかしかない、本物の宝箱を」  商人の言葉を聞いて、その場の全員――麻痺して寝たままのダガムビイシュを含め――の顔に緊張が走った。それは絶対に避けたい事態だった。  このダンジョンには大量の宝箱がある。だが、その99%がミミックというから詐欺も同然だ。当然、大半の冒険者たちは、敬遠する。しかし1%には、とんでもないお宝が入っているらしく、それを目当てにダンジョンへ潜り込む大穴狙いのチームも、いるにはいる。たとえば、私たちだ。同じような考えの奴らが、このダンジョンに潜入していないとも限らない。出入口が複数ある広大な地下空間だ。たとえ内部にいたとしても私たちに分からない。  チームのメンバーの視線がシュレリアマイレに集まった。リーダーとしてパーティーの行動を決定しなければならない瞬間だ。その口が開いた。 「ここで休憩を取る。各自、携帯している保存食を摂って休め。順番で見張りを立てる。ノーパーマアマヌ、アプレマイオス、俺、タランチュラ・マギー、エケイロゾムウの順だ。各一時間の見張りで合計五時間休み、それから冒険を再開する」  私は尋ねた。 「五時間経ってもダガムビイシュが回復していなかったらどうする?」 「置いて行く」  シュレリアマイレの言葉を聞き、タランチュラ・マギーは嬉しそうに言った。 「おいダガムビイシュ聞いたか。良くならないときは、お前、置いてけぼりだってよ。ダンジョンに一人で残されたら、まず死ぬ。単独行動の冒険者なんて、ダンジョンを徘徊するモンスターにしてみたら絶好の獲物だ。可哀そうになあ、はっはっは!」 § § § § § § § § § § § § § § § § § § § § § § §  いかがですプリンセス・プリンセルさん、ここまでの御感想は? 「そうですね。ここには治癒魔法は無いのかなって思いました」  ええとですね、この世界では回復系の魔法が発達していないそうで、病気や怪我は薬か外科手術で治すのが主流みたいです。 「それでパーティーのリーダーの魔道士さんが何もしないんですね」  プリンセス・プリンセルさんのパーティーは、ダメージの回復はどなたの仕事になるんですか? 「治癒魔法を使うのは基本的には女賢者ですけど、ポーションのような回復アイテムを皆で使いますから、これは女賢者がやる! と決まっているわけではないですね」  ところでプリンセス・プリンセルさんは{大量の宝箱があるが、99%がミミックというダンジョン。しかし1%には、とんでもないお宝が入っているらしく……!?}みたいなところに行ってみたいと思いますか? 「いや~どうでしょう? 99%っていったら、ほとんど外れですよね。そして出てくるのがミミックでしょう? 私たちがよく行くダンジョンに宝箱に化けたミミックがいるのですけど、強いんですよ。しかも斃して手に入る経験値が低くて。あんまり旨味のある相手じゃないです」  実は、さっきご紹介したところも同じらしくて、それで人気のないダンジョンのようなんです。 「1%の宝物が本当に凄いものじゃないと、やってられないと思いますよ」  そうですね。どうなるのでしょう? さあ、それでは続きをどうぞ! § § § § § § § § § § § § § § § § § § § § § § §  私たちはミミックを斃した広間で休んだ。広間の一か所しかない入り口に、持参した丸太と杭で簡単なバリケードを作り、その近くで敵が近づかないか見張る。私は自分の番が来る直前に、自然に目が覚めた。魔法のランタンの灯が広間の天井に描かれた聖女たちを映し出している。私は広間の入り口を見た。そこでタランチュラ・マギーが見張りをしていると思ったからだ。だが、そこに奴はいなかった。その反対側、広間の上座の方にいる。何をやってんだ? と思った私は奴に近づいた。 「何やってんだ?」  重装歩兵タランチュラ・マギーは槍を握り締めて何かを見つめている。その視線の先を見ると宝箱があった。未開封の宝箱だ。そんなの寝る前に、あったっけ? と私は不思議に思った。この広間にあった宝箱は、さっき皆で斃したのだ。そのときに傷を負ったのがハーフエルフのダガムビイシュで、そのためにダガムビイシュは体が麻痺して動けなくなった……あれ、ダガムビイシュは、どこだ?  私はタランチュラ・マギーに、ダガムビイシュがいないけど知らないか? と聞いてみた。重装歩兵は槍の先で宝箱を示した。 「これだと思う」 「これが、ダガムビイシュ?」 「ああ、多分そうだ」 「まさか! 動けるようになったんで、どこかへ用足しにでも行ったんだろ」 「オレはずっと起きていた。そしてダガムビイシュの様子を見ていた。それなのに、ほんの少し寝ていた間に、ダガムビイシュの姿が消え、その寝ていた場所に宝箱が置かれていた。ここのミミックの毒は、体を麻痺させるだけじゃない。偽物の宝箱に変えてしまうんだ」 「まさか、そんなことが……」 「絶対にそうだ!」  私たちはリーダーの魔道士シュレリアマイレを起こし、事態を報告した。撤退が即決し、私たちは全員で広間を退去した。未開封の宝箱は、そのままで。 § § § § § § § § § § § § § § § § § § § § § § §  そうですか、そういうことだったのですね。さあ、どうですか、プリンセス・プリンセルさん? 「やっぱり99%がミミックのダンジョンはダメですよ(苦笑い)」  もっと美味しくないといけませんね。さて、それでは次のダンジョンに行きましょう。今度は10年前に出現したダンジョンのようですね。 ・帰還者が誰一人いないという呪われたダンジョン。発生から10年、初の帰還者が語ったダンジョンの秘密とは?  初の帰還者が語ったといっても、それは譫言で、何が何だかさっぱり分からない。もっと詳しい話を聞こうとしても、その前に帰還者は死んでしまった。その帰還者が喋っていた譫言を整理すると、大体こんなことを言っていたようだ。 【その娘の体には“国の宝”と言える力が宿っている】  これだけでは何のことだか、さっぱりだ。そのまま聞き流しても良かっただろう。だが、そのダンジョン攻略に失敗し続けていた冒険者ギルドは聞かなかった振りができなかった。その言葉には何か深い意味があるに違いないと考え、冒険者ギルドの総力をかけて謎の追究を始めた。まず、その娘とは何者なのか、その正体探しが始まった。  高度な魔力による全国規模の調査で、体内に謎の能力を秘めた娘の存在が明らかになった。 ・私を一番の宝物だと言って溺愛する父。けど実は、私の体には本当に“国の宝”と言える力が宿っていると知り……。  冒険者ギルドからの「貴殿の娘は“国の宝”と言える力を宿しており、その解明が急務となっている。直ちに娘を連れて冒険者ギルドへ出頭せよ」と記された手紙を私に見せ、父は命じた。 「今すぐ逃げろ、すぐにだ」  私は困惑した。アイドル冒険者グループ<愛と黄金の薔薇女騎士団>のセンターを守る女騎士として、アイドルとしても冒険者としても充実の日々を送っているのだ。それを捨てて逃げるなんて、絶対に嫌だ!  嫌がる私を父は説得した。 「お前は冒険者ギルドの恐ろしさを知らない。あいつらに捕まったら、もう生きては帰れないと思え。今すぐに逃げるんだ。後は振り返るなよ」  高潔な騎士である父は嘘を言う人間ではない。私は逃走を決意した。しかし、残された父はどうなるのか? 父が心配だと私は言った。 「父さんのことは気にするな。いいか、父さんのことは考えるな。いっそ忘れろ」  母が亡くなった後、私を一生懸命に育ててくれた父のことを忘れることなんかできない! と私は泣き叫んだ。 「大丈夫、いつか会える。それと、これだけは言っておく。いずれ冒険者ギルドの追っ手が迫るはずだ。そのときは、これを使え」  そう言って父は、母の形見の指輪を私に渡した。 「お前のお母さんの魂が込められている。お前の危機を必ず救ってくれるはずだ」  父は私に急ぐように言っている。急かされると焦ってしまい<愛と黄金の薔薇女騎士団>の仲間たちへの手紙が書けない。こんな急にお別れするなんて、考えてもいなかったから、何をどう書けばいいかも分からない。ああ、もう行かないと。異世界への扉が閉まってしまう。さようなら、みんな。そして、ごめんなさい。 § § § § § § § § § § § § § § § § § § § § § § § 「これって、うちのセンターのことですか?」  そうなんです。10年前、この世界に出現したダンジョンについて調べましたところ、こんなアンビリバボーな事実が判明しました。 「それじゃ、急に連絡がつかなくなったのって、こういう事情があったからなんですか!」  そのようです。 「彼女、冒険者ギルドの追っ手に追われているんですか?」  そうみたいです。 「それじゃ、助けに行かないと! 私たちはアイドル冒険者グループ<愛と黄金の薔薇女騎士団>の仲間なんだもの! 早く助けに行かないと! 今すぐに!」  プリンセス・プリンセルさんの次のご予定が入りましたので、本日の放送はここで失礼させていただきます。それでは皆さま、次回の放送をお楽しみに!
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