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プロローグ
10歳までの子供。男女は問わない。
18歳までの若い女。身籠っているなら21歳まで。
一番美味しいとされている肉の時期。肉が柔らかくて、脂に甘みがあり、食べやすい。
身籠った女は特に美味。胎児なんて滅多に戴けない。
逆に、男はダメ。
小さな子供のうちは美味しいけれど、成長すると、どうしても肉が固くなる。美味しくない。臓物なんて、ものによっては食えたもんじゃない。
ちなみに、今日私が戴くのは、『アンドレア・コレット』。23歳。装飾品を取り扱っている男。
今はもう、真っ赤なビジューに彩られた新鮮な肉と化しているが、実はつい先程までキスをしていた。つまり、恋人であった。
愛する人を見つめる目。とろけるような、恍惚とした表情。私は、この表情が大好きだ。
でも、もっともっと好きな表情がある。
それは、私の食事になる瞬間。
驚きと困惑。まるで、バケモノを見るような目。
でもその奥には、まだ愛しい私がいる。
彼も例外なく、そんな表情をしてくれた。
一般的なお料理で言えば、表情はお料理を彩るお皿だったり、ソースだったりと同じになるのかしら。
そうであれば、今日のお料理も大成功と言ったところだろう。
「いただきます。」
最初に食べるのは首筋。少し筋肉質だから歯の通りは悪いけれど、その筋っぽさがクセになる。
いつもの通り勢いよくかぶりつくと、まだ止まったばかりの動脈から血液が噴き出し、顔や髪を汚していく。
至福の時間。私の秘密の食事。
しかし、突如として私の晩餐を不自然に照らす光が差し込んだ。どうやら、背後の扉から差し込んでいるらしい。
とっさに振り向くと、背後の扉は開け放たれていた。そして、男が一人立ち尽くしている。
それは、本物のバケモノ見る目で。恐怖と驚きに満ちた表情で。
ああ、なんてこと。
「見られてしまったのね。」
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