8人が本棚に入れています
本棚に追加
最後の手段
深夜、マンションの自室でわたしが独り寝ていると、玄関のチャイムがピンポーン…と突然、鳴り響いた。
スマホで時刻を確認するとまだ深夜の午前2時。
たとえ親類や知人であってもこんな真夜中に訪問するなんてことはまずありえない……だとすれば悪戯か酔っ払い、でなければ何か良からぬことをたくらんでいる輩か心霊現象であろう。
なので、わたしは無視してやり過ごそうと、そのまままた目を閉じて動かずにいたのだが、さらにチャイムはピンポーン……ピンポーン…と、けたたましく連続で他人の眠りを妨げようとしてくれる。
それでもガン無視を決め込もうと頭から布団をすっぽりかぶってみるが、なおもチャイムはピンポーン……ピンポーン…と一向に鳴り止む気配がない。
またか……。
そのしつこさに、わたしは思い当たるふしがあった……ここまでしつこいのはやはりアイツしかいない……。
やむなくわたしは布団を出ると、薄暗い部屋の中を用心深く玄関へと向かう。
そして、音を立てないよう細心の注意を払いながら、ドアに近づいて覗き穴から覗いてみると、案の定、そこに立っていたのは予想通りの人物だった。
そいつは、わたしの元カレである……。
異様に束縛したがる超モラハラ野郎で、性格の不一致によりこちらから別れを切り出したのだが、別れた後も未練がましく復縁を迫り、果てはストーカー化までしてしまったのである。
こうして深夜に家を訪れるのも、じつは今夜が初めてではない……最近では毎晩のようにこんな迷惑行為を続けてくれている。
他人の迷惑顧みずなこの粘着質……ますます以て最低のクズ野郎である。
今にも金切り声をあげたいくらいに怒り心頭ではあったが、こういう輩はこちらが相手をすればするほどに、逆にその行為をエスカレートさせてしまう。
やはり、無視するのが一番であろう。
なおもドア一枚隔てた向こう側では、アイツがピンポーン……ピンポーン…とチャイムをけたたましく押し続けている。
最初のコメントを投稿しよう!