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ある週刊誌は俺の高校時代の同級生の何人かに取材をして俺が元相方に暴行していたという事実を暴いた。さらに自殺した元相方の両親にまで会って話を聞いていた。自殺で我が子を亡くして感情的になっている両親は「そんな事実があったとは知らなかった」と驚き、「そう言えば思い当たる節がある」と、”思い込みに満ちた先入観だらけの思い当たる節発言”をしていた。
違う。いじめてなどいない。でも暴行したのは事実だ。マネージャーの言う通りこの誤解を晴らすのは難しい。
相方の方も、週刊誌が中学時代の同級生に取材して相方が不良グループにいたことを聞き出していた。相方が、10人くらいの不良グループの端に映っている写真まで掲載されていた。他の人にはボカシがしてあり、赤い髪で舌を出して中指を立てている相方の姿だけがはっきりと載っていた。この写真だけ見るとかなりのワルに見える。でもこれはおそらくその場の空気に流されて調子に乗っていただけだと思う。思った通り相方はそう説明した。皆でちょっとはしゃいでいて盛り上がっているところを撮っただけだ、と。
でも俺も相方もそれらは”世間を誤解させるには十分な証拠”だった。「違います」と否定したところで信用してもらえるものではないだろう。
「しかし、週刊誌にしろネットにしろ、どうして世間を誤解に導くような情報だけを曝すんだよ」
俺がやり切れない思いで苦々しく言うと、
「妬みや嫉みだろうな。若くして大成功したお前たちを羨んで、貶めてやろうって連中がいるんだよ」
マネージャーが吐き捨てるように言った。
「芸能界なんかに長年身を置いているからわかる。とにかくドロドロした世界だ。成功者を貶めたいという連中を何人も見てきた」
それは俺も相方もわかっていたつもりだったが、まさか自分達が当事者になるとは思ってもいなかった。
そしてついに仕事に影響が出始めた。まずCMがなくなった。企業というのはイメージというものを何よりも重視する。イメージが悪化した俺たちから離れて行くのは当然だ。次いで冠番組やレギュラー番組も次々に打ち切りになってていった。番組の評判は良かったのだが、間違った情報を鵜呑みにした視聴者たちからのクレームが後を絶たなかったからだ。テレビやラジオのスポンサーもイメージを重視する。これだけ悪い噂が広がっている俺たちの番組を支えることはできない。
離れるマスコミもいれば寄ってくるマスコミもいた。いま報道されていることは本当なのか? と執拗に訊いてくるのだが、いくら「事実無根です」と答えても聞く耳を持ってくれなかった。マスコミにとって都合の良いように改ざんされて報道されるだけだった。
「法に訴えましょう」
相方がマネージャーに言った。自分も強く同じことを言った。
「もちろん事務所はそうするつもりだ。でもな、ネットだのマスコミだのを訴えて勝ちを得るまでには手間も時間もかかる。世間ってのは飽きるのも早い。お前らがテレビなんかに出なくなったらすぐに飽きられてしまう。そしてなにより裁判に勝っても世間の誤解が解けるとは思えない。自分が間違っていたと認めないやつらは絶対に認めないからな。そうなるとイメージは悪いままで仕事も元のようには戻らないだろう……」
マネージャーはそう言って顔を歪めた。
俺と相方は途方にくれた。なんとか世間に出回っている誤解を解く方法はないかと思案に暮れた。でも下手なことはしない方がいいと事務所からもマネージャーからも釘を刺された。
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