愚か者たち

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 その瞬間、俺は右手拳をハンマーのように固めて慢心の力を込めて一気に小人に叩きつけた。小人は声も出さなかった。モニターの光が消える。その後も何度も何度もくり返し小人を叩き続けた。しばらくして手を止めて小人を見てみると車に轢かれたカエルのごとくぺちゃんこに潰れていた。 「愚か者はお前だ。最初に簡単によろめいて、さらには『俺の身に何かあったら』なんて言いやがって。要するにお前を簡単に殺せるということだ。人間を舐めきっていて自分が人間に反撃されるなんて夢にも考えていなかったんだろ?」 『チャンスになるかも』だと? 小人から話を聞いた時には憤りで思わず声が喉に詰まって、さらに怒りによる興奮で立ち上がってしまった。人間の人生にチャンスなんてものはないんだよ。なのにどうしてそんな余計なことをしてくれるんだよ、と。でも永遠にこの何もない世界に取り残されると想像した時は激しく武者震いしたぞ。そんな最高なことはない、と。  小人の言う通りだ。人間ってのは、みんな愚か者なんだ。だから人間の人生ってのはどうやっても難儀なものになるんだ。そんなことは百も承知だ。だから引きこもっているんだよ。そんな愚かな人間の世界が永遠に無くなるなんてこれ以上喜ばしい世界があるかよ。  別の人生を仮想体験なんかする前から小人を殺してしまおうと思いついていた。しかし隙がなかった。でも人間を見下している小人は簡単に油断するだろうとも思った。結果、大成功だ。  こんな何にもない真っ暗な世界に永遠に取り残されたら頭がおかしくなるかもしれないな。でもそれはそれで面白そうじゃないか。退屈しないですむ。布団を残してくれたことは感謝するぞ。俺は布団にもぐり込むと目を瞑った。そして何も見えない本当の闇が広がった。                                 了
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