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小人の方はそんな俺を見てしびれを切らしたのか
「そら、そんなアホみたな顔してないでさっさと行ってこい。ごちゃごちゃ考えなくても行って体験すればわかる。そしてその後、じっくり考えるんだ」
と小人はイラついたように言い、それと同時に俺の身体が宙に浮いた。「あっ」と思っていると、こちらの意志などまったく無視してもの凄い力と速さで強引にモニターの中に放り込まれた。
俺の人生はいままでは見事に成功していたはずだった。それなのに、どうしてこうなった?
俺は小さな頃から人を笑わせることが大好きだった。お笑い番組やバラエティ番組が大好きだった。笑うことも好きだった。
そして多くの人を笑わせているお笑い芸人は何よりも好きだった。自分もお笑い芸人になろうと決めたのは中二の頃。親からは大反対された。でも反抗期真っ盛りだった俺は親の反対など耳を貸さず、どうすればお笑いのプロになれるかを毎日必死に考えた。
高校には行った。中学を卒業してからすぐにお笑い養成所に行こうと思っていたのだが、親に頼むから高校くらいは行ってくれと泣きつかれた。仕方ないので高校には行った。
しかし、これが正解だった。自分の漫才の相方が見つかったのだ。こいつだ、相方はこいつしかいない。そう思える相手に高校で出会えたのだ。
とは言ってもいきなりそんな相方に出会えたわけじゃない。最初に『こいつだ』と思った相手がいたのだが、彼は失敗だった。クラスメイトで面白いやつだなと思ってお笑いの道に誘ってみた。すると彼もお笑いに興味があったようで、俺とコンビを組むことを承諾してくれた。
俺は毎日のようにネタを考えた。そして相方に毎日「漫才の練習をするぞ」と、鼻息を荒くして練習に誘った。が、彼は最初こそ俺と同じくらいの熱量があったものの、次第にサボるようになってきた。なんだかんだと理屈をつけては漫才の練習をサボるようになったのだ。
それでも俺は最初はなんとか耐えていた。が、ある日、「今日は親がやっている店の手伝いを頼まれているから」と言って学校から早々と家に帰ったはずの彼がゲームセンターで必死の形相でゲームをしている姿を見つけた時、堪忍袋の緒が切れた。でもその場では怒らなかった。ゲームで遊んでいる姿を証拠として秘かに携帯のカメラで動画で撮影した。
そして次の日、学校の人気のないところに呼び出して、
「昨日、夕方5時頃なにをしていた? 正直に言ってくれ」
と訊いた。
「え?……だから親の店の手伝いだよ」
と彼は言った。
俺はがっかりしてため息をついた。まだ正直に事実を話して謝れば許してやったのに。
「これはなんだ?」
と俺は撮った動画を見せてやった。彼の顔が青くなった。
「お笑い芸人になりたいんだよな? ええ? 甘い世界じゃないことは重々承知だろ? こんなことをしていてお笑い芸人になって、売れっ子になれると思うのか?」
しかし、彼の顔が青色から赤色に変わるとなんと逆ギレし始めた。
「うるせーよ。お前にばっかり付き合ってられるか」
大声ではなかったが凄みのある顔と声でそう反論してきたのだ。
今日こそ本当に堪忍袋の緒が切れた。気が付くと俺は彼を掴み、殴り、蹴っていた。我に返った時には他の何人かの生徒が集まっていて俺を抑えていた。ボコった相方はその場にうずくまって泣いていた。悪いことをしたと反省した。でも言い訳が許されるのなら俺のお笑芸人になるという情熱はそれほど強いという証でもあったのだ。
先生と親に激しく厳しく怒られた。でもその程度で済んだのはラッキーだと思っていた。――その時は。
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