愚か者たち

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 そんなわけで彼とのコンビは1年も経たずに解消した。  本当の出会いがあったのは2年生の時だ。クラス替えがあって、本当の相方を見つけたのだ。一見、大人しいやつだった。でも話してみると面白いやつだった。なにより、的確な突っ込みをしてくれるのだ。その突っ込みの間といい、突っ込みの語彙の面白さといい、完璧だった。しかも意識して突っ込んでいるのではない。普段の会話の中でほとんど自然に突っ込みをしてくれている。これは天性のものだと俺は感じた。 「中二の頃はちょっとやんちゃしててな。髪も真っ赤に染めていた。そして毎日やたらとはしゃいでいたよ。いわゆる中二病だったのかな。でもそういうのが恥ずかしいと思うようになって、それで大人しくなろうと思ったんだけど、本来の俺はそうやってはしゃぐのが好きな人間なんだよ。いまは建前だけ大人しくしているんだ」  彼は自分の過去を照れくさそうに告白した。 「俺とお笑いやってみないか? お笑いをやるなら存分にはしゃいでいいんだぞ」  俺が誘うと彼はさらに照れくさそうな反応を示したが承諾してくれた。  自分が作ったネタで新しい相方と漫才をしてみると、やはり完璧だと感じた。パズルのピースがぴったりはまるかのような掛け合いができた。アドリブの突っ込みも見事なものでこちらもアドリブでボケることができて、作ったネタを広げることもできた。  試しに昼休憩にクラスで同級生たちを集めて彼と漫才を披露してみた。緊張したがクラスメイトの大爆笑をかっさらった。どんなネタをしてみても同じだった。感激で全身が震えた。 「俺達で、お笑いで天下を取ろうぜ」  そう彼に言うと 「おお」  と俺よりも強い鼻息で応えてくれた。  それからはどんなことよりお笑いを優先して必死になってネタを作り、二人で漫才の練習を重ね、たまに同級生たちの前でネタを披露した。いずれも大ウケだった。自分のクラスだけではなく他のクラスからも他の学年からも見に来る人たちが増えていつしか俺たちが漫才を披露する教室は”お客”でいっぱいになるようになった。最初は注意をしに来た先生でさえ俺たちの漫才を見て大笑いして、「毎日でもやりなさい」と言ってくれたほどだ。  しかし良いことばかりは続かない。寝覚めが悪くなるような出来事もあった。喧嘩別れした”元相方”が自宅で自殺したのだ。遺書等はなかったので原因はわからないがひょっとすると俺が他の相方をみつけてウケていることに『裏切られた』とでも思って深く傷ついたのだろうか? しかし裏切ったのはむしろ向こうの方だろう。もし本当に俺の推測通りの理由で自殺したというのなら逆恨みが過ぎる。俺は気にしないようにした。まったく気にしないということはできなかったが、気にしていても仕方ない。  新しい相方と漫才の腕を毎日磨いて文化祭で多くの人の前でネタを披露した。学校の生徒や先生はもちろん、俺たちの評判を聞いていた父母や他の学校の生徒など、とにかく多くの人がステージになっている体育館に集まった。漫才で3つのネタを披露してみたがいずれも大爆笑で大成功で終わった。  そして卒業が近づくともちろん二人でお笑いの養成所の面接を受け、当然二人とも合格した。  養成所でも俺たちふたりは群を抜いていた。ずば抜けていた。  すぐに小さなお笑いのコンクールに出場して他の出場者に比べて圧倒的な笑いの差をつけて優勝した。  そしてプロになってから3年後には日本でもっとも有名な漫才大会で優勝した。この漫才大会で優勝すれば人生が変わるといわれていたが、本当に人生が変わった。休日はほとんどなくなった。
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