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俺が高校時代の元相方に暴行している動画が拡散されていたのだ。マネージャーが「これ、お前だよな?」と青い顔で見せてくれたその動画には確かに俺が暴行をしている姿が映っていた。10年以上前のものではあるが、顔や声やルックスは明らかに俺だ。
あれだ、あの時、元相方にぶち切れて掴みかかって暴行しているところを周囲に止められた時だ。あの時集まったうちの誰かが携帯のカメラで撮影していてそれをSNSに投稿したのだ。俺は奥歯を噛んだ。この動画そのものは言い訳のしようがない本物だ。
でも常日頃からいじめていたわけじゃない。腹が立ってこの時だけ手を出してしまったのだ。
しかし、マネージャーは「それはマズい。たとえその場限りのことであったとしても、暴行したのが事実ならいじめていたと思われても仕方がないぞ」と頭を抱えた。確かにその通りだ。
相方も顔色が悪かった。が、どうも様子がおかしかった。顔色が青いのはもちろん、何か焦っているようなオドオドとした落ち着かない様子だったのだ。
……嫌な予感がする。マネージャーも同じだったのだろう、「なんだ? お前、何かあるのか?」と不安そうな顔で訊いた。
相方はしばらく結んだ口をもごもと動かしていたが、目を強く瞑って言った。
「昔、俺が中学生の頃に一時的に不良グループにいたのは本当なんだよ。そして警察に捕まったことがあるというのも本当のことなんだ」
「なに?」と俺もマネージャーも同時に驚いた。中学時代に少しやんちゃをしていたというのは聞いていた。でも警察に捕まったことがあるというのはいま初めて聞いた。
「と言っても、俺は恐喝して相手を下半身不随になんかしていない。それはグループ内の他のやつがやったことだ。俺はたまたまその場に居合わせただけなんだ。俺はむしろそいつを必死に止めたんだよ。でも誰かが警察に通報したみたいで、巻き込まれる形でその場で一緒に捕まってしまった。俺自身は大した罰は受けなかった。その後、グループはすぐに抜けたよ。そしてそんな連中とつるんでいたことを恥じて大人しくなった」
しばらく沈黙となった。呆然と固まっていたマネージャーが口を開いた。「つまりこういうことだな。お前らが昔やったことに尾びれ背びれがついて広まっている、ということなんだな……」マネージャーは絶望的な顔になっていた。
「もう一度会見してしっかり経緯を説明したほうが……」
と俺は言ったがマネージャーは「無駄だ」と切り捨てるように言った。「偽りの部分が多いが、事実の部分もある。そういうことは誤解を解こうとしても逆効果になるんだ。世間が信用するのは事実の部分だけ。正確には尾びれ背びれがついた”偽りの事実”だけを信用する。しかも一度会見ではっきりとやっていないと断言したんだ。いまになって本当のことを話したとしても前回の会見で嘘をついていたことを、見苦しく言い訳しようとしているとしか思ってくれない。世間ってのはそういうものだ……」俺はもはや憤りよりも、可笑しさの方が上回って
「偽りの事実ってなんですか?」
と笑いながら言ってしまった。なんだその矛盾に満ちた言葉は? と、可笑しくなってしまったのだ。マネージャーは真顔で「そんな矛盾したことが世の中では平然とまかり通るんだ」と嘆息した。
事務所も含めてどうするか必死に考えた。しかし、その間にも”偽りの事実”は広まり続けた。
そしてネットだけではなくマスコミも取り上げ始めた。
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