檸檬の彼女

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 彼女はいつも窓辺にいた。二階の窓辺だ。僕も二階だった。だからよくその窓が見えた。  風がある日には白いカーテンがふわりと舞って、ちらと中の様子が見えるのが僕はほんの少しの密かな楽しみだった。  彼女は僕に気づくとにこりと微笑んでくれる。細められたブルーの瞳と、日光を優しく浴びた陶器のような白い肌。シルクのような白い髪は珍しくて長く、風に吹かれてさらさらと動く。  きゅんとなる。  彼女はいつも病院服を着ていた。ここはただの田舎町で、入院できるような病院なんて隣町にしかなくて、おかしなことだった。  緑のその静かな色が、彼女の白を引き立たせていると言えばそうだった。  美大生だった僕は、彼女に「普通の服を着て欲しい」と思った。そして描かせてくれと言いたかった。しかし、そんなこと言えなかった。  なんでかって? こんなのただの欲望だからだ。  他人に「この服を着てくれ!」なんて渡したって、それは親しい関係でもない限り変態行為である。  彼女のことは苗字の「渡辺」しかわからない。  はぁ、とため息をつく。  今日も彼女は僕に笑う。好きだった。
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