山で

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 暗い。見えるのは木の影ばかり、太った幹を捻り、枝を伸ばしてもがいている。今にも蛇に食われそうだ。厚い雲が月も星も隠してしまって、どこから来てどこへ向かっているのかも判らない。獣の息も虫の声も聞こえず、風もなく、がしゃがしゃ落ち葉を踏みつける音ばかりが響く。薄いセーラー服は霜に濡れ、山中の冷え切った空気に刺されるようだった。悪夢のような夜だ。じっさい夢に違いない。いつものように現から目を瞑って、そのまま眠ってしまったのだ。何から逃げているのか、どうして追われているのかわからない。脳髄まで凍りついて、思考も朧げで、ただ足を動かさなくては殺されると思った。体じゅうが痛い。息を吸えば心臓まで針を立てられ、四肢の痛みもわからなくなってきた。歩みを止めることはできない。滑り易いローファーで、傷だらけのふらついた足は、落ち葉と枯れ枝と無数の死骸に覆われた地面を踏み損なった。それで記憶が途切れている。恐ろしい夢だった。 「こんなに綺麗な死に顔を見たことがない」
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