転生先は赤ちゃんでした

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 パカ、パカ、パカ、パカ!    馬が地面を蹴る音が聞こえる。    数えて3日ほど俺は馬に揺られていた。    布のせいで景色は見えないし、退屈だ。    と言うか腹減った。    俺じゃなかったら確実に餓死してるぞ。    絶食下でも耐えれる魔法を覚えてて助かった。    しかも、下半身はひどく不快だ。    この身体、排泄が制御できないのだ。    勝手に排泄してしまうのだ。    なので、しょっちゅうお漏らししてしまっていた。    さすがにこれを放置されるとカゴの中で臭いと不快感が凄まじいので、俺は仕方なく浄化の魔法でおしめを綺麗にした。    もう化け物扱いされたし、このくらいは良いだろう。    それにしても魔力もかなり落ちてる。    全盛期の1%くらいか?    いや、もっと低いかもしれん。    それでも、俺を運んでいるこの人間を捻り潰すことくらいはわけないが。    城から運ばれた俺は、何人かの手を経て、牙の森とやらに運ばれていた。    恐らくは、赤子を捨てるなんて任務を誰もしたくなかったのだろう。    両親? は王族と思われたので、最初に命令を受けたのは近衛兵だろうから、さらにその下の下っ端。    騎士見習いくらいが、この任務についたと思う。    貧乏くじをひいて可哀想に。    中について見ることを禁止されているのか、一度も布はとられなかった。    中身を見るのが怖すぎて見れない、と言う可能性も捨てきれないがな。    そうこうしてる間に徐々に馬の歩幅が小さくなり減速し出した。    どうやら牙の森とやらについたらしい。   「…………」    ドサリと音がし、振動がなくなった。    どうやら、俺を入れた籠が地面に置かれたらしい。    すぐに俺を捨てて逃げるだろうと思ったが、気配はずっと傍にあった。   「隊長には絶対中身を見るなって言われたけど、何が入ってるのかしら?」    女の声だ。    人間よ。    好奇心は身を滅ぼすぞ?    君たち騎士は淡々と命令に従うものだほう?    俺は心の中で警告してあげたが、無駄だったらしい。    パラリ、と俺にかけられていた布が剥ぎ取られ、満月が顔を照らす。    暗闇から急に明るくなって俺は目を閉じてしまった。   「嘘……赤ちゃん……」    中身を見て少女は絶句していた。    見た目は10歳くらいだろうか。    かなり幼い。    着込んだ鎧が不釣り合いで、まともに戦える感じはしないな。予想騎士通り見習いなのだろう。    金色の髪が月明かりを受けてキラキラと輝き、青い瞳が驚きに見開かれる。    コイツなら俺が化け物だとバレたところで困るまい。    その気になったら、プチッと殺ろう。   「んぁ……」   「生きてる? え、紅い目?」   『生きてるのが意外か?』   「え? え?」    キョロキョロと辺りを見回す少女。    念話も知らんのか?   『お前の頭に直接語りかけている』   「え? 魔法……。赤ちゃんが魔法?」    不気味なものを見る様に俺を見下ろす少女。    捨てようとした荷物が実は赤子で、3日も放置したのにピンピンしていて、しかも魔法まで使ってれば、不気味だと思うわな。    まぁ、俺を見た以上は仕方あるまい。    調度いい。    俺が死んでからどうなったか、調べさせて貰おう。    こいつは魔法抵抗も低そうだし。   『そのまま大人しくしていろ』   「え? は? いったっ!?」    少女はいきなりの頭痛に頭を抑えた。    ちょっと記憶の覗いただけで大袈裟な。   (こいつの名前はライラ。騎士団見習い。ヘーゼル王国出身。種族は半獣人? 人間の国で半獣人だと? 奴隷なのか? いや、騎士見習いならおかしいな? 親はいない……)    人間にとって、人間以外は亜人として魔族と同じ敵だったはずだ。    奴隷戦士ではなく、騎士見習いと言うのは解せぬ。    俺は気になってさらにライラの記憶を見た。   (奴隷ではないな。普通に暮らしている。騎士見習いになった目的は強さか。半獣人が普通に暮らしてるなんて、どうなってるんだ? 魔王ラグナーレク? 1000年前に勇者によって倒された獣王、海王、森王、土王等の他種族を束ねた最強の魔王? は? ……1000年前? 1000年前だとっ!?)    俺は驚いてライラの記憶の読むのを中断してしまった。   「っは! い、今のは?」  いきなり頭痛から解放されて驚くライラだが、それどころではない。    転生の技は魂の大きさで次の転生に時間がかかる場合があるのは知っていた。    だが、1000年もの時間が経っているなど誰が想像出来る?    しかも、あれだけ弾圧し、敵対し、奴隷扱いしていた魔族や亜人と人間の融和が完全にされていた。    俺が夢見て、不可能だと絶望し諦めた世界が出来ていた。    ライラの記憶だと俺が死んでから勇者がそれを成してくれたらしい。   「……」   「あ、あの赤ちゃん?」    突然黙り込む俺にライラは怯えきった眼差しを向けていた。    頭を抑えていたせいで乱れた髪からモフモフの尖った耳が見えていた。    半獣人というのも間違いなかったらしい。   『とっとと任務を達成したなら帰ると良い』 「いや、貴方は何者なんですか? その赤子が捨てられてるだけでも尋常じゃないのに……」    その後の言葉は言わなくてもわかるぞ。    こんな不気味極まる赤ちゃんがいるのはおかしいと言いたいのだろう。    言葉を濁しても顔に出とるわ!    とは言え、俺が魔王として就任した時の願いが叶ってしまったていた。    今更魔族を束ねて人間と戦争する大義もやる気もない。    何のために転生しちゃったんだよ、俺。    よりにもよって人間の--それも勇者の子孫の赤子に生まれ変わるわ、魔王としての意義もなくなってるわで、俺は途方に暮れた。   『ほっとけ』    不貞腐れる俺にライラは目をパチパチとしていたが、いきなり笑いだし、   「拗ねない拗ねない」    いきなり俺を抱き上げるとあやし始めた。   「もう、赤ちゃんの可愛い顔が台無しですよ~」 『やめんか! 俺を赤子扱いするな!』   「そうなこと言っても、見た目は赤ちゃんだし、名前も教えてくれないし」    なんなんだコイツ。    俺を不気味がってたと思ったら、いきなり人懐こくなりやがった。    意味がわからん。    まぁ、確かにライラの名前だけ勝手に読み取ったのは礼を失するか。   『俺はラグナーレクだ。ラグナと呼べ』    俺の名前にライラはまた驚いた顔になり、   「1000年前の魔王と同じ名前なんて、すごい偶然ですね。案外、魔王の生まれ変わりだったりして」    うん、正解。    無駄に鋭いな。    ここでその通りだと言って驚かしてやっても良いが、そのまま逃げられるのも困るな。    なにせ……。   『おい、ライラ。俺を置いて、剣を抜け』 「……え?」   『魔物だ』    視線だけライラの背後に向けると、釣られてライラも視線を背後に向けた。   「グルルル!」    闇からヌゥ、と、魔狼が姿を見せたのだったからだ。    
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