転生先は赤ちゃんでした

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 ◆ ラグナ視点    久しぶりに身体を動かしたが、技は忘れてなかったな。    ただ、肉体、武器ともに貧弱すぎた。    『身体強化』を使ったが、ライラの身体は魔法をまともに使ってこなかったのか、魔力回路がほとんど開いておらず、かなり無駄に魔力を使ってしまった。   (あんな雑魚相手に疲労するとは……)    俺はため息をついて『憑依』を解除した。   「あ、あれ?」    いきなり自分の身体に意識が戻ったからか、ライラはキョトンとしていた。   『とりあえず、ここを離れた方がいい。血の匂いで魔狼が他にも来かねないぞ』    魔法で埋めるとか凍らせるとかしていればよかったが、なにぶんライラは戦士系だからな。    大した魔法は使えない感じだったし……。   「え? あ、はい!」    ライラは俺を抱き抱えると、乗ってきた馬に飛び乗って、牙の森から出ていく。   (魔狼が出てきても逃げなかったとは対した馬だな。軍馬はやはり肝がすわっている)   「ひひぃん!」    俺が逃げなかった馬に関心していると、得意げに馬も応えるのだった。   『というか、俺まで連れてよかったのか? 任務は俺を捨ててくることだろう?』    勢いで抱き抱えられたままだが、これはライラが困るのではないのか?   「いえ、私が言われたのはあの籠を牙の森に放棄することで、中身に関しては言われておりませんから」    屁理屈だな。    こいつ、なかなか面白い。    騎士は命令に愚直なものだ。    忠誠心がある騎士ほど上に従順なのに。   『はは! 騎士見習いが呆れるな』   「騎士見習いのままでは強くなれないですからね。私は2年したら冒険者になるつもりですし」   『? 騎士になるのではないのか?』   「あぁ、ラグナはこの国の就職システムについては知らないんですね」    当たり前だ。    そこまで詳しく記憶を見る暇などないし、こちとら1000年前の記憶しかないんだぞ。   「この国では正式な職につけるのは最低でも12歳から、だだ、国営の組織には10歳から見習いとして所属できます」    これは騎士見習い、メイド見習い、鍛冶師見習い、魔導師見習い等と全て見習いとして扱われる。    見習いは国営の寮で暮らすことが出来き、食と住は保証されるし、低賃金だが給金も出る。    この制度は孤児院を減らすためや失業者対策、治安維持、人材の質向上のための政策で、いきなり成人と同時に未経験者が工房に入ったり、商人になっても足でまといや借金まみれで失業、冒険者になっても初めてのクエストで戦闘経験無しのまま魔物に襲われ、あっさり死亡するのを防ぐためのものらしい。    成人になる2年の間に国営期間で働かせ、基礎を身につけさせる。    そのまま国営組織に所属してもいい、腕が良ければ就職もしやすい。    失業者が減れば食うに困って犯罪を犯すこともなくなる。    騎士見習いなら戦闘訓練を受けれるので、冒険者になっていきなりのクエストで魔物に遭遇しても死ぬケースも減る。    しかも、見習いでも簡単な仕事はできるので、労働力も確保でき、労働力不足も緩和されると。    見習い達も経験を積めて、住む場所と食べ物の保証があって、仕事も与えられるなら、国に対して好感を持つだろう。    国としても失業者がいなければ徴税し続けれるし、国益と上がる。    ……いい事ずくめだな!    もと統治者として感心する政策ばかりだ。    ちなみに冒険者見習いと言うのは存在せず、戦闘訓練を積みたいものは騎士見習いになるらしい。    冒険者の知識は休みの日に簡単なクエストを受けたり、自習して2年後の自立に備えるそうだ。   「そんなわけで、私は騎士見習いですが、冒険者志望なんです」   『騎士の方が安定してそうなのにな。なんで冒険者になりたいんだ?』   「騎士では国を越えて活動できませんし、強さも冒険者の方が強くなれると思うんです。彼らは実戦尽くしですし」   『何故、そんな強さを求めるんだ』   「使命があるからです」   『使命?』   「私が獣王ロアの子孫だと言ったら信じますか?」   『いきなりなんだ?』    話が見えんぞ?   「5年前に私の家族が殺害され、先祖代々獣人ロアが護っていた宝珠が奪われました」   『宝珠……』    まさか俺がロアに渡した奴じゃないよな?   『それって……どんなのだ? 見たことはあるのか?』    俺は心当たりがあって、それは的中して欲しくなくて、恐る恐る尋ね。   「真紅の宝珠でした。中に常に変化する紋様が炎の様に絶えず浮かび上がっていて、どんなことがあっても傷1つつきませんでした。私が幼い時に床に落としてしまった時も逆に床が凹むほどで、母には獣人ロアが肌身離さずに持っていた至宝と教えられておりました」   (あぁー! うん……最悪だな)    俺は思わず顔を覆いたくなった。    生憎と、この短い手ではできなかったが。    予感的中だ。    しかも、最悪の。    あのオーブには龍神の生まれ変わりである俺が当時持っていた魔王の権能である『壊滅』の力を込めてあった。    ロアが北からの軍勢を迎え討つために出陣する際に切り札として授けたのだ。    使わなかったのか……。    しかも、朽ちることもなく残っていて、それが盗まれたのか。    殺してまで奪ったとなると、どう考えても悪意ある何者かだろうな。    あれは使い方次第で小国くらい簡単に滅ぼせる力を込めてある。   『成程、復讐と宝珠奪還の為に強くなりたいわけか』   「はい。そのためにラグナの力が必要なんです。どうか私の師匠になってもらえないですか? このまま騎士見習いで訓練し続けても強くなれない気がするんです」    ライラの顔は冗談を言ってる様子ではなかった。    生後0歳の赤子に向ける眼じゃないんだが……。   (でも、これって俺が元凶なんだよな……。ロアは最期まで俺に尽くしてくれた部下だ。その子孫を助けるなら恩返しにもなるか)    なにより、この姿で一人で生きたていくのは簡単ではない。    なにせ赤子だし。    世話をして貰わないと魔力が尽きた瞬間に死ぬ。    それに俺の目指した世界が実現している以上は魔王としての存在もこの時代には不要だ。    転生した目的もなくなっているし、俺がすべき事はないのだ。    ならば、恩返しのために彼女を鍛えてもよいのでは?   『いいだろう。だが、俺は厳しいぞ?』   「はい! ありがとうございます!」    こうして赤子と見習い騎士との奇妙な師弟関係が結ばれたのだった。      
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