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アップデート
休日にショッピングモールをブラブラと歩いていると1組の夫婦が前方から歩いてきた。
年齢は旦那の方は40前半くらいか…。
大柄で強面の旦那の方は、何やら小柄で華奢な奥さんに小言を言っている。
しかも休日のショッピングモールだというのに大声だ。
まあ、平日でも大声はどうかと思うが。
「…全くお前は、鈍臭い。早く歩けよ」
「…ごめんなさい…」
買った大荷物を持ちながら、小走り気味に旦那の後をついている。
「なんのために連れてきたと思っているんだ、お前は」
なんだ、この亭主関白を地でやるような男は。
家族連れの多いショッピングモールで
俺は偉いんだぞアピールか?
今は令和だ、昔ではない。
いや、昔の人だって亭主関白をしていたとしても基本妻を大事にする人間の方が多かったはずだ、ひと握りのクズ野郎を除いて、である。
令和の今だからこそ、夫婦なら支えあってこその夫婦だ。
どちらかだけが頑張る必要も我慢する必要もないはずだし、話し合えば良い、
家電だって年々進化を遂げているのに何故人は…ひと握りの人間は妻を家政婦扱いするのだろう。
家政婦扱いするなら、それに見合ったお給料を払えよと俺は思う。
俺はああなりたくはない…。
そんな事を考えているとその夫婦とすれ違った。
小走りに移動していた奥さんの方がよろけて倒れそうになるのを、咄嗟に俺が左腕で回避した。
「…すみませんっ!」
奥さんは体勢を整えて、俺の腕から離れるとすまなそうにしていた。
振り返った旦那がチッと舌打ちをした。
「何やってるだよ!鈍臭いな!…すみませんね、愚妻が」
奥さんをチラッと見てから、俺にそんな事を言っているが、無視して、
「足、捻りませんでしたか?大丈夫ですか?」
俺が訊ねると奥さんは頷いた。
「ありがとうございました」
大荷物なのに綺麗な所作で礼を言う奥さん。
そうして旦那の後に付いて行くのかと思いきや、大荷物を旦那の目の前に落とした。
「な、何しやがる!」
旦那は奥さんの行動に狼狽えた。
そんな旦那に先程までの奥さんとは違い、冷めた表情をして言った。
「何かしら?私はあなたの荷物持ちでも、家政婦でもありません。亭主関白気取りで何様のつもりなのかしら?今までは我慢していたけど、もう限界です。モラハラの証拠もたんまりあるし、離婚します」
「な、なんだと!お前に何が出来る!」
「え?あなたの頭はいつになったらアップデートするのかしらね?記憶が昔のままなの?それとも随分と過去に生きている人なのかしら?あなたに内緒で仕事してるから、稼ぎはあるし家事も出来る。ひとりで生活する方が精神衛生上、いいのだけど。あ、帰りにこの間くれた離婚届、出しておくわね。あとの事は弁護士を通しての話しか聞かないから。じゃあね」
奥さんはそう言って颯爽と去って行く…。
まるでドラマか映画のワンシーンのようだった。
俺もその場を離れ、立ち止まっていた通行人達もそれぞれ移動し始めた。
俺の後ろで元になるのか?旦那が何かを叫び、周りの人達はヒソヒソと何かを囁きあっていた。
が、そんな事知ったことではない。
「はぁ~、休日があっという間に過ぎるな…」
あれから家に帰って来て、のんびりと過ごしている。
ピンポーン
とインターホンが鳴る。
インターホン越しに返事をすると、何か聞いた事のある声がしたし、さっき見た人が立っていた。
『隣に引越してきた、吾妻です』
急いで玄関に出ると…そこにはさっきショッピングモールで会った、小柄で華奢な奥さんだ。
表情は清々しい。
しかし、あの出来事の後ですぐに引越しとは、もう随分前から考えていたんだろうな…。
「え?」
顔を見合わせて、彼女は驚いたように体が止まり、そして同時に笑い合う。
「…世間って狭いのね」
「……ですね。足は本当に大丈夫ですか?捻ってませんでした?」
「ええ、大丈夫よ。お隣さん、これからよろしくお願いしますね。ところで貴方の名前は?」
「笹川 勝二(かつじ)です。こちらこそ、よろしくお願いします」
人生のアップデートした吾妻さん…吾妻 華世さんはまさに華のように微笑んだ。
おわり
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